伝統の違う生き方を提案する
笠浪:
先日パスザバトンの催事を行いましたが、その反響はどうでしたか?
私が店舗に立った感想は、今まで知らなかった人や伝統工芸に興味なかった人に、だいぶ届いた催しだったかなって思います。
Whole Love Kyotoとしての認知があがったかなって思います。
酒井:
それはなんでそう感じたの?
笠浪:
パスザバトン祇園はSNSで知っている人が多い店ですよね。
そこに入らせてもらうことで、パスザバトンのお客さんが来ました。
普通に生活していたら、なかなかWhole Love Kyotoには出会わないような人たちが来てくれて、製品を知ってくれました。
酒井:
接客してみてどう?
笠浪:
一瞬でも興味持ってくれたことを感じたので、それが大きいかなって思いました。
新里:
売上からも分かりますよね。
酒井:
いやまだまだ。
それで言うとHANAO SHOES発売時は、2週間で100足以上買ってもらえたよ。
新里:
え、初めてでそんなに売れたんですか!?
すごい!
酒井:
それと比べると冬だから、スニーカー買う人少なかったとは思うけど
多いとは言えない。
お客さんは、道具とかも見ていた?
笠浪:
職人の道具ですか?
酒井:
販売していた道具と、してない道具もあったよね?
笠浪:
していないところはあまり見られていなかったです。
でも販売していたところは、今回新しい使い方の提案をしていたんで、菓子型がたくさん売れて嬉しかったです。
伝統文化をファッションに転換できた気がして、自分たちの活動の意義を見いだせました。
酒井:
あと片山文三郎商店さんのカバンがすごく売れたでしょ?
それって嬉しいけど、なんかちょっと悔しい?
笠浪:
悔しいです。
売れるたびに「あ…」ってなっていました。
酒井:
それに代わるモノを自分たちは作れないのかって思うよね。
カバンが人気だった要因としては「手頃な価格」が挙げられると思います。
かき氷を食べに来た人にとっては、1万円以上はスっと買えるものでもない。
もう少し安価で、職人さんの仕事を買えるくらいがちょうど良かったのかもしれません。
笠浪:
色合いとかもですよね。
酒井:
うん。
それこそ、君らが考えるべきだな。
新里:
結構課題が…
酒井:
話せば話すほど、課題が見える。
新里:
はい、たくさん増えました泣
酒井:
見た目、インパクト、ふさわしい価格、みたいなバランスがきちんとしてるものは、しっかり手にとってもらえる。
そういうモノをちゃんと作らないといけないって思いました。
新里:
パスザバトンの時も新しい使い方の提案をしたと思いますが、セlectも他のとこと違って新しい使い方にこだわっていると思います。
その点で大事にしていることはありますか?
酒井:
その製品につけている言葉だと思います。
言葉によって、受け手には全然違う風に見えるので、こういう言葉をつけたら欲しくなるんじゃないかって考える。
製品の可能性っていうのを「1」って思っているんじゃなくて、「10」だと思おう。
もっと可能性はあると信じて、モノと向き合う。
この製品はこういう風に使うモノと決めるんじゃなくて、違う生き方を提案することは僕らの大事な仕事です。
別に男の服を女が着てもいいじゃん!みたいなことと一緒かなって。
伝統工芸はもう売れない?
新里:
追加で質問いいですか?職人さん側が「伝統工芸はそんなもう売れない」ってマイナスなイメージを持っている人も結構いると思います。
それを自分たちの活動をすることで、その人の視点が変わることに意味があると思っていますが、職人さんと関わり始めて、職人さんの反応は変わりましたか?
酒井:
清水の菓子型の職人さんは好例で、初めてコンタクト取った時「こんなもん誰も欲しがらない」って言われたんですよね。
新里:
そうです。
酒井:
でも「そうじゃなかったでしょ?」ということを結果でお返しすることができた。
職人さんも「俺はまだやれることがあるかもしれない」っていう風に思ったかもしれないですよね。
学生も自分の作品を気に入っていればいるほど、先生に「え、これ面白くない」って言われた時のショックは大きい。
先生に「いいねぇ」って言われた時の嬉しさも大きいよね?
逆に自分があまり気に入ってないと、何か言われても「まあ、そらね」みたいに逃げられる。
いいねって言われてもそんなに嬉しくないし、ダメだねって言われてもそんなに傷つかない。
その点、京都の職人ってすべてを込めていると思う、これが最高だと。
学生は「まあちょっとできてないな」と思っても合評に出してくるでしょ?
職人は、まず自分が納得のいかないものは、外に出さない。
自分が納得いくものができているのに「こんなもの誰が欲しがるの」って言ってるのは、実は辛いことだと想像する。
新里:
特に良さを知っている分、自信あるからですよね。
酒井:
良さを知っているし、自信もあるのに、自分は信じているのに、「こんなモノ誰が欲しいの」って言う辛さってなかなかないでしょ。
それは実際に何年も何年も売れなかったとか、求められなかったっていう社会の風がそうさせている。
社会が悪いとは言わないけど、あるきっかけでバッと花開くってことはあるから、「やっぱりいいものだったでしょ」って思わせる機会をつくりたい。
もの作っているのは自分たちも同じだから、より気持ちが分かるのかもしれません。
今、世の中に売っているもので、そういうモノすごく少ないでしょう。
作り手が「これ完璧でしょ、最高だろう」っていう風に思っていないモノの方が多い。
野菜もそうかも。
『この大根はたくさん農薬使っていて、体にあんまり良くない。でも、まあ他もそうしてるからいいか。売ってもいいでしょ』って。
そういうモノに囲まれて僕らは生きている。
それは気づかないけど、豊かでないと思う。
本書いてる時、京都の老舗って自分の納得してるモノを売るってことをまず大事にしてるんだな。ってインタビューしていて思ったんです。
「あ、だからこの人たちお客さんを大事にするんだな」って思った。
自分がすごく気に入ったモノを他人がすごく気に入ってくれたとしたら…、そのお客さんのこと大好きになるよね。
笠浪:
なります、なります!
酒井:
その関係性ってとても素敵だと思う。
でも大半のモノはそうじゃなくて「これくらいでいいんじゃないですか」でできている。
売上が大事なだけだから、買ってくお客さんのことを本当に大事にはできないですよ。
今「自分が気に入ったものをお店に並べる」っていう、素朴で基本的なことがおざなりになっています。
まあその状況を変えるには、とてもとても小さなことですけど、小さなことの積み重ねが大事なんです、菓子型も。
新里:
他の職人さんにもそう思ってもらいたいです。
笠浪:
パスザバトンで売れた時、そういう気持ちになりました。「あ、買ってくれた!ありがとう!」みたいな。
酒井:
大好きって?
笠浪:
そう、「もう大好き!」ってなりました笑
だからそれは自分たちの製品に気持ちがあるからかなって。
酒井:
そうです!
笠浪:
だって別にバイト先でパン売れても何も思わないです。
酒井:
笑。
買ってくれた人がそれを使った上で、もう1回来てくれるかどうかも大事です。
それはほんとのファンだし。
そのお客さんをすっごい大事にしているのが京都の老舗。
めっちゃ大事にしているから。
新里:
だからWhole Love Kyotoのお客さんも大事にしたいですね。
酒井:
大事にしたいですね。
どう大事にするかってことがまた、問題でしょ?
笠浪:
うわ、また課題が増えました!
新里:
課題が多すぎる…。
笠浪:
一回整理しないといけませんね、私たちの課題!
About Whole Love Kyoto
#12
KYOTO T5 センター長
酒井洋輔
文:
笠浪萌愛(ファッションデザインコース)
新里小春(ファッションデザインコース)
ブランドの監修を務める当センター長 酒井洋輔(空間演出デザイン学科 准教授、株式会社CHIMASKI代表)に、ファッションという観点から、ブランドの誕生秘話についてお話を聞きました。