永遠の若大将
京都は大学の数が日本で一番多い「学生の街」。その「学生の街」京都の、京都大学がある左京区百万遍の交差点を少し入ったところに、東山湯温泉はあります。
今はワンルームマンションの時代になりお風呂が備え付けられている部屋がほとんどですが、昔から寮だったり、共同のアパートだったりが多くあったので、特に学生さんで賑わう場所だったそうです。
今も東山湯は、若い学生さんからご近所の方達にとって、なくてはならない場所になっています。
「僕がこの場所で育っててよかったって言うのは、大学が近いってことね。若い人が来ると、気持ちも若くなるよね。年寄りばっかこられたらあれじゃない。でも若い人きて喋るから、自分が歳いってること忘れてしまうもんな。だから永遠の若大将。気はいつまでも若い。体はガタガタだけどね。」
四郎さんとお話しをしていると、まるで同じ歳の人と話しているような感覚になります。
四郎さんは学生にとって、友であり、人生の先輩でもあるのです。東山湯に通っていた学生が、先生になっても通い続けるということも多いそうで、四郎さんは、「その過程を見ることができるのが楽しい」と嬉しそうにお話ししてくださいました。
溢れ出す音楽愛
お店自体が100年を超えるという東山湯温泉。お父さんがお店を経営される昭和15年より前から、銭湯としてこの場所にあり続けているそうです。四郎さんは昭和49年、奥様とご結婚されると同時に2代目としてお店を継がれました。
しかし、当初はお店を継ぐということは全く考えていなかったそうです。元ミュージシャンということもあり、もともと音楽がお好きだという四郎さんは、ブルースバンドのプロデューサーとして世に出る機会が少なかった若いバンドの為に、コンサートやイベントを打ち出すことをされていました。
ビートルズがかかる銭湯として有名な東山湯温泉ですが、それは四郎さんの音楽愛から来たものでした。
「他所行ったら大体かかっているのは演歌。歳いってる人はこういうの嫌なの。うるさいから変えろ!って言われても、それをごまかしてごまかして、残していった。僕はね、普通の銭湯の大将にはなれない。自分の音楽が好きということが維持できたから、続けてこれたの。」
好きなことを貫き、誰もがしてこなかったことをし続けてきた四郎さんは、今でも音楽をやりたいという夢を捨てていません。いつか、志郎さんの音楽を聴きたいと思いました。
営業開始~18時はビートルズ、18時~22時までオールドポップス(いろんな曲をシャッフルで流しますが、演歌はかかりません。)22時~ビートルズと、時間で流す音楽を変えておられるそうです。
なので、来られたお客さんは「ここの大将変わってんなぁ、ビートルズしかかけへんのか!」という方や、「なんでビートルズかかってないの!」と言われる方もいるそうです。
暖簾をくぐるとすぐにジュリーのポスター。
中に入るとジョンレノンやオノヨーコ、マリリンモンローのポスターが貼られています(男湯のみ)
無くなっていく銭湯、残したい銭湯
東山湯温泉は、30年前に改装を行い、その際に誤って湯船を大きくしてしまったそうです。
「僕らはお客さんが帰って自分らが最後入るんやけどな、大きい湯船に入ると、ただただ幸せなんですよ。仕事は大変だけど、銭湯は好きね。銭湯やってる人で、銭湯嫌いな人はいない。やめていく人もな。」
大きくなってしまった湯船のおかげで、お客さんは安心して身体を休め、幸せを感じることができるのです。その時間はまさに天国に浸かっているようです。
改装の際に工事屋さんが勝手につけたという石像と、京都の銭湯の大会(2005年)で優勝した際に貼られたという「you’re in heaven」の文字。
全部で6種類のお風呂と、サウナ。電気風呂、エステジェット(強力なジェット)、ブロア(下から泡が出る)、薬風呂、時間でお湯の色が変わるネオン風呂、京都の地下水を使った天然掛け流し水風呂があります。
四郎さんのオススメは薬風呂とジェット。腰に効きます。
昔、京都には500件以上の銭湯があったそうですが、現在は110軒と約5分の1にまで減ってしまいました。東山湯温泉のある左京区も、50軒以上から10軒ほどになってしまったそうです。
「僕は銭湯を継ぐということは考えてなくて、急に継ぐことになって大変やったな。何も知らんから。でも、その時お店をたたむということは考えられなかった。やっぱり残したいよね。ここは残したい店だから。」
今もご夫婦二人三脚でお店をきりもりされている東山湯温泉は、京都に残さなければならない銭湯です。
京都にお越しの際はぜひ、東山湯温泉の天国に浸かりに来てください。
京都のスープ
#08
東山湯温泉
文:
鈴木日奈恵(基礎美術コース)
東山湯温泉 HP:
https://1010.kyoto/spot/higashiyamayuonsen/
ミュージシャンからブルースバンドのプロデューサー、そして銭湯の大将へ。
東山湯温泉の大将 東山四郎さんに、お話を伺いました。