六曜社を愛する人々
河原町通り沿いにある六曜社珈琲店さん。
この「六曜社」という店名は驚くことに、元々あったお店の名前をそのまま引き継いだ店名なんだそうです。六曜社を営む前、隣のビルで喫茶店を営まれていた際も、店名はビルの名前をそのままとり、「コニーアイランド」として営まれていたと言います。
「名前で何かを伝えるというわけではなく、自分たちのやっていることを信念とする。」そういった創業者の考えから、このようなかたちになったとのこと。
六曜社の入り口は二手に分かれており、地下へと続く階段を降りると、河原町通りの賑わいとは一変、かすかなBGMと珈琲のほのかな香りが漂う、落ち着きのある空間が広がっていました。
一階は「珈琲店六曜社」として様々な年齢層のお客さんで賑わう喫茶店。
一方、地下の「COFFEE&BER」は、産地ごとの珈琲も味わうことができ、玄人の方でも楽しめる喫茶店として営まれており、地下店は夕方を境にBERに変わり、六曜社のまた違った一面を味わうことができるようになっています。
「六曜社を愛してくれている人が六曜社を守り続けるっていうのを僕たち家族と一緒に、念頭においてやってくれてます。」
その言葉の通り、六曜社はお客さんだけでなく、従業員の方々にも愛され続けています。
勤務歴が長い方も多く、薫平さんの叔父様にかわり、BERタイムに勤めている女性は、かれこれ40年近くも勤めているとのこと。
「僕も10年って言ったけど、それよりも携わっている家族じゃない人がいるっていうのは何よりもうちの強みだ」と薫平さん。
創業者の思いを知る人々がいるからこそ、時間の流れに趣が生まれる。
そんなお話しから、六曜社がいかに愛されているかがひしひしと伝わってきます。
言葉にしないコミュニケーション
「僕らが思っているのは、基本的にお客さんがそこで過ごしたいなと思う時間を重要視していて、いかにひと席ひと席に彩りを添えてあげられるか、寄り添ってあげられるかっていうことをしっかりと考えていて。個人としてのメイン時間があるんだけど、そのコーヒーは決して向き合わなきゃいけないわけじゃなくて、こだわったコーヒーをその合間に飲めるちょっとした贅沢っていうのがきっとあると思うんです」
お客様に心地よく過ごしていただき、六曜社で過ごした時間を記憶してもらう。
例えるなら、六曜社は「止まり木のような存在だったりとか、生活の中に句読点をつくってもらったりする場所」だと薫平さんは言います。
重厚感のある室内とは対称的に、従業員さんが私服で接客をされている点も六曜者さんの大きな特徴の一つです。薫平さんの言う「特別じゃない、小さな幸せ」を感じさせる要素は細かなところにもしっかり表れているように感じます。
ちょっと背筋を伸ばして
「変わったねって言われたくなくて、変わらないねって言って欲しいと思って六曜社に入ったので、それをやり続けるために自分の店を始めて、自分のやりたいことをそこでやり尽くしたって感じです。」
家業に戻られる前は、薫平さん自身で喫茶店を営まれていたそう。六曜社は「何かを変える場所でもなければ、自分のカラーを出す場所でもない」という考えを継ぐ前から持っていた薫平さんは六曜社が築いてきた今までの時間を壊さないよう、「変わらないこと」を軸に、現在も活動されています。
セルフカフェが台頭してきた今、ほったらかされる自由が確立されつつありますが、若者にとっての社会勉強の場、いわば社会への予備校のような役割を担っていた頃の空気感を程よく残していきたいと薫平さんは語ります。
しかし、薫平さんの代で少しやり方を変えたところもあると言います。
創業者の代は、従業員さんの教育に厳しく、愛があるからこそのお叱りが店内に響いていたそうです。しかし、若い世代の人々にその空気は受け入れづらいのではないかと判断した薫平さんは従業員さんへの伝え方を変えました。
「祖父母が厳しい分には全然いいんですけどね。やっぱり、創業者の力って強いんですよ。でも、それを僕がやってしまったら、違和感になる。受け継ぐんですけど、要は謙虚になれるかってこと。今までの歴史を上乗せするのではなくて、もう一回土台作りをするっていう意味で、上から被せるんじゃなくて、下から支えてあげるっていう伝え方に変えました。」
そのおかげか、若い世代のお客さんも増えてきたと言います。
「背負い続けるのは辛いけど、抱え続ける方がいい」
これは、様々なことをのりこえてきた薫平さんなりの悩みの抱え方です。悩みさえ大切にしていく姿勢やひとつひとつの言葉に私たちも少し背中を押していただいたように思います。
「喫茶店はリアルが連鎖している。誰かの15分、はたまた誰かの1時間っていうものが連鎖しているから、面白いですよ。やっぱり、僕にとっては天職かもしれないです。」
清水焼のタイルに、珈琲豆を挽く音、お客さんの話し声、ご厚意でいただいた珈琲の香り、そのすべてが「六曜社」という空間、時間を生み出しているということをあらためて感じました。
京都のスープ
#26
六曜社珈琲店
文:
工藤鈴音(クリエイティブ・ライティングコース)
写真:
谷口雄基(基礎美術コース)
六曜社珈琲店 HP:
https://rokuyosha-coffee.com/
「もちろん、色々しんどいこともあるけども、やっぱり、しんどくてもやりがいがあるっていう部分が続けている要因なのかなと思いますね。」
10年ほど前に家業に戻られたという三代目の奥野薫平さんにお話を伺いました。