京都で愛される菓子屋
京都で愛され続けている和菓子屋「鍵善良房」は、
八坂神社から徒歩1分。赤い暖簾が目印のお店です。
まずは創業についてお伺いしました。
「実際、詳しいことはわからんけど、うちの中にある1番古い資料で享保年間には菓子屋として営業してたってのがわかってるね。元々創業は四条縄手上るに店があって、明治に四条通りが拡幅されたのと一緒に今の場所に移った。この祇園町でいわゆる京都の上菓子屋さんのひとつとして始まり、ずっと続いてる。明治時代は街が近代化されて、それまで四条通にあった茶屋などは見えないところでやってくださいというような時代だった」
そういったことを知ると街が違って見える気がします。
祇園の仕出し文化
次に祇園の仕出し文化について教えて頂きました。
「京都自体が都やったから地方から色んなものが集まって来たんやと思います。私たち上菓子屋は、主に公家さんとかお武家さんに向けて作っていたので、当時は入手しづらい材料を手に入れて納品していましたね。昔は注文を受けたら作ってお届けするといった感じやった。ショーケースに入れて並べて売るスタイルは最近やね。江戸時代は朝のうちにお菓子を見本箱にたくさん入れて、料理屋や茶屋に注文を取りに行くというのがお菓子屋の主流でした」
戦後には祇園町で遊んでいた人達から、お酒を飲んだ後や食後のデザートに甘いものが欲しいといったときに注文が来るようになったそうです。
「せっかく作るなら普通に作るのは面白くないから、木漆工芸家の黒田辰秋さんに信玄弁当っていう弁当箱を総螺鈿で作ってもらって、そこにくずきりを入れて配達してました。今みたいにネットとかがないから口コミで広がって、食べたいっていう方が店に来るようになったので食べられるスペースを作ったんです」
螺鈿……漆器や帯などの伝統工芸に用いられる、貝殻の内側にある虹色に輝く美しい部分を磨き柄や模様を表現する技法。
販売スペースの奥にはゆったりとした空間の喫茶があり、昭和初期から提供されている人気のくずきりが味わえます。蜜は自家製の白蜜と波照間島産の黒蜜を使った2種類から選べます。上品な味の蜜に絡めていただくくずきりはまさに絶品です。
生まれ育った京都
「日々大切にしているのはお客さんを喜ばせたい、楽しんでもらいたいということです。あと、格好悪い事だけはしたくないな。生まれ育った京都という街の厳しさを50歳になった今でも感じるね。この年になって少し慣れてきたけど、怒られへんように慣れへんように」
京都の厳しさに慣れてしまうのではなく、いつも初心を忘れないように心掛けていらっしゃいます。
最後に鍵善さんは京都にとってどんな存在でありたいですかとお尋ねしました。
「たまにお菓子を買ってくれはるところでいいんじゃない。みんなに愛してもらえたら嬉しいな」
京都という街でプライドを持ってお店を経営されている今西さんはとても強くて逞しくて格好良いと感じました。これからも京都で愛され続ける菓子屋であって欲しいと思います。
京都のスープ
#27
鍵善良房
文:
桝田菜月(ファッションデザインコース)
写真:
三浦麻衣(文化財保存修復・歴史文化コース)
鍵善良房 HP:
https://www.kagizen.co.jp
鍵善良房 15 代目当主 今西善也(ぜんや)さんにお話を伺いました。