京都のスープ
#31


京都祇園 おかる

「本当に真面目に地道にやっていくっていうことだけですかね。あとは常に開けておく。毎日365日、朝から夜まで開けておく。来てくれたお客さんに、『あれ、閉まってた。残念』って思われるのってやっぱりすごく悔しいじゃないですか。せっかく来てくれはったんですし」
祇園のまちに寄り添いながら約100年。京都祇園 おかるの4代目、干場浩二さんにお話を伺いました。

原点を忘れずに

祇園の舞妓さんや、著名人、観光客など多くの人に親しまれている「京都祇園 おかる」。
京阪本線・祇園四条駅の7番出口から徒歩3分、祇園のまちの少し入ったところにお店を構えています。
店内には舞妓さんの名前が書かれた京丸うちわや著名人のサインなどが所狭しと並びます。

おかるさんの創業は1925年。今から約100年ほど前、当時は祇園の甘味処としてお店を始めたそうです。麺や丼を中心として提供してはいますが、現在もその名残であんみつやぜんざいなどの甘味も取り揃えていると4代目店主の干場浩二さんは言います。

「この甘味だけは絶対に残しておきたいっていう先代からの教えなんです。だから、これを消すとなんか先代に怒られそうで」

特にあんみつは寒天やあんこ、黒みつまでも自家製で作っているというこだわりもお聞きし、とても驚きました。


次に店名の由来についてお聞きしました。
名前の「おかる」は歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」のお話に出てくる「お軽」という人物がモデルとなっているそうです。
「仮名手本忠臣蔵」は勘平という男が、恋人のお軽と会っていたがために、主である塩冶判官の死に際に居合わせることができず、そのことから悲劇に見舞われていくというような話である。そしてこのお軽もまた紆余曲折の末に祇園の遊女となるのです。


歌舞伎のおかるはフィクションですが、実際に祇園のまちにおかると言う舞妓さんがいらっしゃったそうで、物語のモデルである大石内蔵助さんという人物の妾であったそうです。
今の「おかる」がある場所は舞妓のおかるさんの住んでいた置屋さんがあった場所らしく、そのことからも「京都祇園 おかる」の初代が大正時代にこの店名をつけたとお聞きしました。




真面目にこだわる

お店の名物はカレーうどん。特にチーズ肉カレーうどんはおかるさんを訪れる人すべてに愛される絶品の一品です。
ピリリとスパイシーなカレー味を感じながら、優しい京風のお出汁もしっかりと味わえます。また、柔らかい京都ならではのおうどんにチーズが風味を損なうことなく絶妙に絡みあいとても美味しかったです。

「お出汁はすごくこだわってますね。毎日、先代のレシピ通りの出汁を取っています。昆布は料亭でも使われるような一番いいものを使っています。昆布にこだわると出汁自体が劣化しないんです」
「あとはチーズを厳選したのが良かったのかもしれないですね。日本のチーズだと乳の香りがきつすぎて出汁の風味が飛んでしまうので、海外の風味がおとなしめのチーズとコクのあるチーズをちょっと合わして試行錯誤で作ってみたんです。やっぱりカレーうどんのお出汁の味を一番に感じてもらいたいので」

このチーズ肉カレーうどんは干場さん発案のメニューであり、特に深い思い入れがあるそうです。

「チーズ肉カレーうどんは舞妓さんに『もうちょっとハイカラな味のもん食べたいわー』って言われて、作ってみたら舞妓さんが口コミで広めてくださったみたいな感じですかね。あとは東京の伊勢丹さんとかの物産展などで提供していました。それが 15 年から 20 年ぐらい前なんですけど、そこからもだいぶ京都観光に来られた方が立ち寄ってくださったりとか。地道に真面目にやってきて、たくさんの人に食べていただけるようになりました」


安心感のある店、おかるさん

「京都祇園 おかる」さんはメニューのレパートリーがとても豊富です。

麺類だけでもその数は30種類を超えますが丼や季節限定、甘味なども含めるとものすごいバリエーションになります。その数の秘密には干場さんのお母さんの存在があると言います。

「母親が嫁いできてからですね。一気に種類を増やしたみたいです。最初はうどんと甘味だけで、6・7品ぐらいしかありませんでした」

祇園のまちの出前文化からお弁当の宅配に注力しながらも、最終的には今の麺と丼と甘味の提供というスタイルに落ち着いたそうです。

「麺に集中した方がいいかなということでね。お弁当も扱っている時は、この店の要である麺と出汁がおろそかになってたので。やっぱり麺と出汁の部分はちゃんと固めとかんとあかんなって」

干場さんにまちの人や舞妓さん、著名人や観光客など多くの人に愛される秘訣を伺うと、100年続く歴史の積み重ねの中に人を思いやる温かさが見えてきました。

「ありがたいですね。本当に真面目に地道にやっていくっていうことだけですかね。」

おかるさんは毎日、お昼の時間帯の11時から15時、夜の時間帯は17時から深夜の2時半まで営業をされています。おかるさんのいつでも開いているという安心感が人々に愛される秘訣だと感じました。

しかし、約100年近くも続いているおかるさんですがコロナ禍では他の飲食店と同様に大変な痛手を受けたそうです。

「本当に潰れかけました。お店はずっと開けていて、せやけどお客さんが来なくなって。社員の分の給料を出さなあかんので、全然追いつかなくて。切り崩して切り崩してみたいな。もう無理やでっていうところまで来たんですけどなんとか耐えました」

こんなに長く続いているお店でも新型コロナウイルスの影響が大きかったと知ると文化や習慣というものはしっかりと守っていかなければ、とても儚くあっという間に崩れるものなのかもしれないと感じました。

祇園と共に

最後に京都にお店があるということについてお聞きしました。
干場さんが場所とお客さんにすごく恵まれていると嬉しそうにお話しされている姿が印象的でした。
「昼間は観光の方、夜は祇園のお客さんだったり、舞妓さんが来られます。たぶん京都じゃなかったらこうはいかなかったなと思うんです。地元の業者さんとも良い信頼関係もできて、毎日新しいものを届けてくれるっていうのもすごく大きいです。やっぱり、真面目に地道にですね」

老舗であっても、誠実に積み重ねることと感謝の気持ちを持ち続けることの大切さを忘れないこと。
「京都祇園 おかる」さんは、これからも祇園のまちと共にあり続けていくでしょう。


京都のスープ
#31
京都祇園 おかる

文:
建木紫邑(クロステックデザインコース)

写真:
鈴木穂乃佳(基礎美術コース)

京都のスープ
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京都祇園 おかる

「本当に真面目に地道にやっていくっていうことだけですかね。あとは常に開けておく。毎日365日、朝から夜まで開けておく。来てくれたお客さんに、『あれ、閉まってた。残念』って思われるのってやっぱりすごく悔しいじゃないですか。せっかく来てくれはったんですし」
祇園のまちに寄り添いながら約100年。京都祇園 おかるの4代目、干場浩二さんにお話を伺いました。