京都のスープ
#23


雲仙

「マスターマスターと言われるよりも名前で呼ばれるし、そんな感じやからそういう人が自分の店のように、自分の布団のようにここを愛してくれてはるから、その人らのためにも一生でも開けなあかんなって。」
珈琲の店 雲仙 マスター 高木利典さんにお話を伺いました。

ホットケーキの旅をしていて

京都下京区に珈琲の店 雲仙はあります。創業は昭和10年。高木さんは毎週日曜、サラリーマンから皆に愛されるマスターに姿を変え、お店に立っておられます。

創業された昭和10年に、ちょうど九州の雲仙が日本で最初の国立公園に指定されたことを記念して、お名前を「雲仙」に決め、オープンされたそうです。

お店の看板メニューであるホットケーキは、高木さんが粉から開発をされた完全オリジナル。しかもボリュームのあるホットケーキが500円と、とても良心的なお値段です。私たちもご馳走になり、しっとりふわふわなホットケーキに大感激しました。高木さんにおいしさの秘密を聞いてみると……

「ホットケーキ開発にあたってホットケーキの旅をしていた時期に、会社の慰安旅行があって。その時乗った飛行機のANAの機内紙にコラムが載ってて、その記事がヒントになって、あ、これやって。」

今では一日に40個出る日もあるホットケーキのヒントは、意外にも機内誌のコラムから得ていたそう。実際に何が入っているのか、それは秘密のようです。


移りゆく常連さん

昔、雲仙さんがお店を構える周りは、呉服関係をされている方が大変多い場所でした。そこから時代が流れていくにつれ、幅広い世代のお客さんがたくさんいらっしゃるようになったそうです。

「室町、新町の染め物屋さん着物屋さんの打ち合わせでようここ使ってはったりとか、僕が子どもの時とか、来たら皆着物ばぁっと広げて図面やって、そういう風景があったりして、結構染め物屋さん着物屋さん関係の人が圧倒的に多かった。」

「うちらは、僕のところのおじいちゃんおばあちゃんがやってはった頃からのお客さん、その息子さんやお孫さん、三代に渡って来てくれてる人がいはるから。そういうお客さんがウチのベースやね。」

「今は日曜日しかやってへんねんけど、若い女性とか若い観光客の方とかものすごい増えたから、びっくりしてる。嬉しいなと思うけどね。」


マスターのこだわり、大切にしていること

高木さんは来てくださるお客さんに合わせてお店の音楽を選んだり、古いものを大切にされて店内の空間にまで気を配っておられました。そんな心配りが上手な高木さんに、このお店のこだわりを伺いました。

「こだわりかあ〜。母親とかにはよく『ケチるな』って言われたなあ、『ケチるな』。」

「材料とか量とか、値段もそうやけどあんまりケチケチするんじゃなくて、ちゃんとした材料を使って『安かろうが悪かろうがちゃんとしたものをちゃんと使え』って、よう言われたな。」

「僕、たぶん素人に近い感覚やから、あんまり他所さんの真剣に毎日やってはる人と比べたら恥ずかしいてこだわりってあるのかないのか、自信ないけど、お客さんからしたらせっかくこんな大事な店があるんやから長いこと続けれるようにって、いっつも言われてるね。」

「若い人らもね、最近ようきてくれはるし、ここの良さっていうものをわかってくれはる人が多いのかなと思う。」

幅広い世代にわたって愛される雲仙さんには、お母様の「ケチるな」の一言が根付いているのかもしれません。


楽しさを感じる瞬間

高木さんは普段はサラリーマンをされながら、休日のみ雲仙のマスターとしてお店を開けるという一風変わった営業をされています。

「体はしんどいけど、精神的にはものすごく潤ってる。それは何でか言うたらお客さんと会話することとか、『マスター、マスター』言うて、若い人らが慕ってくれたりとか。それはめっちゃ嬉しいね。みんなから色んなこと相談されて、男の子とか女の子とかがここで結婚の顔合わせをしていいですかとか言うてくれて、逆にこっちがドキドキする。みたいなことあったり。」

「若い人らはそういう新しいお付き合いもいっぱいできてきてるし、さっきの話でいうたらおじちゃんおばちゃんも。これはもう自分の母親と同年代やし親みたいなもんやなあ。」

「マスターマスターと言われるよりも名前で呼ばれるし、そんな感じやからそういう人が自分の店のように、自分の布団のようにここを愛してくれてはるから、その人らのためにも一生でも開けなあかんなって。」

営業日のために毎日朝早くから少しずつ仕込みをされる大変さも、お客さんとマスター 高木さんの強い想いがあってこそ乗り越えられることなのだなと感じました。

最後に、高木さんの思いを伺いました。

「京都にとって、というか一応うち100年までは突っ走りたい。京都には新しいお店も古いお店も沢山あるけど、そういうとこに負けるとか勝ちとかそういう風なことではないけど、そういうとこと肩並べるようになるぐらい京都で雲仙っていうお店があるいうのは知って欲しいなと思ってんねんか。

別にそんな流行って行列できんでもいいねんけど、知ってもらいたいなって。こういうお店があることを。

こんなお店って他所にもないし、京都は古い店あるけどこの辺ではここしかないし、これ作ろ思っても作られへんからね。そういう京都にあるこの店っていうのを知ってもらえたらなと。」

昔から受け継ぐものを大事にしながらも、常に新しい可能性を楽しみながら模索している高木さん。様々な人に高木さんはチャンスをプレゼントしておられました。

柔らかいあたたかさの流れる雲仙は、日曜日にオープンです。


京都のスープ
#23
雲仙

文:
堀江若菜(ファッションデザインコース)

写真:
江川乃重(ビジュアルコミュニケーションデザインコース)

雲仙 facebook:
https://www.Facebook.com/unzenkyoto/

京都のスープ
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雲仙

「マスターマスターと言われるよりも名前で呼ばれるし、そんな感じやからそういう人が自分の店のように、自分の布団のようにここを愛してくれてはるから、その人らのためにも一生でも開けなあかんなって。」
珈琲の店 雲仙 マスター 高木利典さんにお話を伺いました。