つくるひと、つかうひと
#14


金網|辻泰宏さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、辻和金網 3代目 辻泰宏さんです。辻さんの”工芸品のある暮らし”をお話いただきました。

辻和金網 辻泰宏さん
創業1927年辻和金網の3代目。大学卒業後すぐに金網細工の道へ。
90年以上も変わることのない伝統の技で料亭などのプロから一般家庭に愛される道具まで、様々なものを手作業でつくる。手作業で生み出される美しい金網は機械には真似することのできない職人の技。京都に残る金網屋が残り少なくなった今も、時代にあった道具を作り、京都の伝統を守り続ける。


目次:
変わらない編み方
手作業だからできること
良い変化のためには使うこと


変わらない編み方

──金網の歴史を教えてください。

京都の金網の起源って平安時代って言われてて、そんな昔の頃は線から一つ一つ手作りでつくるから、金網って高価なものやって。それがいつからそうなったかはわからへんけど、職人の手作業で作るもんだった網が機械で作れるようになって、一般的に広まっていった。広まって行ったけど、手で作る人はそこからどんどん減って行った。プラスチックが出てきたのもあるし。

今京都にはもう三軒しかないな、こうやって表出て金網売ってるのは。職人さん自体も内職さんいれて、七、八人とちゃうかな。もともとは金網屋だけでも京都に五、六十軒はあったみたいやけど。機械が出てきた時に建築関係の網とこういう手作りで、いろいろ調理用具を作る、そういうのにすぽっと別れて。

建築関係っていうのはフェンスとか、網戸とか。料理用具っていうのはそれこそうちみたいな。フェンスとかも昔はみんな手編みやったな。

──編み方や素材はどんなものがあるんですか?

編み方は基本亀甲編み。二本の線をあんでいってたら、自然と六角形になるね。必然的に。逆に違う形にしろっていわれたらできなくはないけど難しい。編んでねじって行くとどんどん丈夫になっていくんだけど素材は銅の方が編みやすい。そのままクッと曲がってくれるんよ、銅は。ステンレスは、パッと離したら、戻るんよ。そのかわりステンレスの方が丈夫やけど。

──編む目の詰め具合でこんなに綺麗に立体になるんですか?

これはもう、熟練やな。けど、基本なんでも機械みたいに完璧に編めへんから、もう修正の連続。ここ編んで、もうなおせへんなと思ったら、どっかでその狂いを合わせとくみたいな。めちゃくちゃ正確にやってたら、時間も手間もかかるし。ってくれるんよ、銅は。ステンレスは、パッと離したら、戻るんよ。そのかわりステンレスの方が丈夫やけど。

──使ってる材料でこだわりなどはありますか?

材料、あるな。けど、相当悪いやつは返品するで。たまに、銅でも色が悪い時ある。
建築系で使いはるんやったら別に構わんかもしれんけど。編んで商品として売るからな。最初の時点で色が悪かったら、返品したりするな。

あと基本、ステンレスも銅も、硬線となましと二種類あってね。なましっていうのは熱入れて、ちょっと柔らかくしてる。こういう手で編むやつは基本ぜんぶなまし。だから、曲げやすさとかで良し悪しはあんまりないけど。

やっぱり、こだわりっていうか一番見るのは色かな。出来上がった時に色が悪かったらどんなに綺麗に仕上がってても、な。あと、ステンレスでちょっと油の量が多かったりとか。そんなんは、もうこっちで拭いてるけど。

──商品を作る時、銅とステンレスはどうやって使い分けていますか?

基本、ステンレスは丈夫だから、火つかうものはステンレス。あと、水気な。あれもステンレスの方がいい。銅は、別に水気があかんわけではないんやけど。抗菌作用もあるし。その色の変化を楽しみたいっていう人もいるしね。あと、もう火にはあんまし強くないと。そのかわり熱伝導はいいから、炭火で使ったりとか。料理屋さんとかけっこう銅が多いから。


手作業だからできること

──手仕事だからできることはありますか?

そうやねえ。まあ、お客さんの要望に答えられるというところかな。針金の太さにしろ、網目の大きさにしろ、要望に答えやすい。それは手作業でしかできないことやと思うわ。機械じゃ融通きかんからな。それこそお客さんと話しててこんなん作れますか、という話からこんな使い方してます、とかも聞けたりする。

もともとコンロの上に置いてお餅とか野菜を焼くものって売ってたけど、その網でパン焼く人が現れたりしてな。あとは修理もできる、ほころんできたら直したりとかね。

──吊りかごひとつ作るのにどれくらいかかりますか?

一個やろ?よう聞かれるんやけどな〜。この底の部分やったら、底ばっかりまとめて作んねん。ほんで、横やったら横ばっかり編んで。仕上げは、仕上げばっかりする。一個一個、全部やってたら、台もいちいち変えていかないかんし。どのくらい時間かかるんですかって必ず聞かれるけどわからへん笑
ある程度の数でパーツつくって、あとで組み上げる。
最初は底からつくって、そのあと横。で立ててやっていく。

──辻和金網さんにしかできない技とかってあるんですか。

うーん。難しいな、難しいけどその店によって、微妙にねじり方が違たりとか。形でも微妙に違たりする。お客さんが同じやと思てても違ってたりとか。
見たら誰が編んだかまで分かるな。それはもう特徴があるから。そら一般の人は分からへんやろうけど笑 亀甲の目の角度とかでな。
ねじりが短くて、詰まると、当然角度が変わるんよ。ねじりの違いだけで分かるね。
職人さん何人かいはるけど、やっぱりそれぞれ特徴がある。


良い変化のためには使うこと

──辻さんの金網のおすすめの使い方とかはありますか?

この釣りかごやったら基本、根菜類入れてもらったり、吊るしてお花入れたり。
色んな使い方して欲しい、自由になんでも入れてもらえたら。とにかく置いといてもらうより使ってもらいたいな。いい変化は、使わないかん。使うほど、艶が出た色の変わり方をする。

何も使わずに色の変化していく場合と、使いながら色の変化していく場合では全然違うね。この前、使い込んだ人で持って来はって、中網変えた時とか、けっこういい色になってたけどね。置いとくよりも、使った方がいい色になるね。

──使う上で注意点などはありますか?

まあ、銅はやっぱり酸気、塩気に弱いな。あと手の脂とかな。
基本、銅は銅イオンを出す。それは、自分を守るために膜をはる。それが、色の変化の原因で、それが味になってくる。それを薬品使ったり、擦ったら、下の色が出てくるけど、また同じようになっていく。

だから、その味を楽しんでもらいたいな。お鍋とかやったら磨けるけど、針金はなぁ。なかなか。表面だけ磨いても側面は磨けんし、使ったあとは乾拭きしてもらって、そのまま続けて使っていただくのがいいと思うな。


職人さんの手の感覚を頼りに作りあげられる美しい六角形。
完全に均等ではないからこそ手仕事の暖かい風合いがあります。

【辻和金網】つりかご

今日では伝統的な手編みの金網細工店は片手で数えるほどになる中、辻和金網さんは今も昔と変わらない作り方を続けておられます。
辻さんにお聞きしたつりかごのスタンダードな使い方は、根菜類、果物入れだそうです。室内で使うことはもちろん。外に持ち出して楽しんでいただけます。


つくるひと、つかうひと
#14
辻和金網
辻泰宏

文:
荒木桃香(クロステックデザインコース )

撮影:
中田挙太

辻和金網HP:
http://www.tujiwa-kanaami.com/

つくるひと、つかうひと
#14


金網|辻泰宏さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、辻和金網 3代目 辻泰宏さんです。辻さんの”工芸品のある暮らし”をお話いただきました。