つくるひと、つかうひと
#07


和紙|山城睦子

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、京都の黒谷で紙漉きを続ける、黒谷和紙の山城睦子さんです。

黒谷和紙 山城 睦子さん
800年前から始まった、黒谷の紙漉きを受け継ぐ3代目。
子供の頃から黒谷で、紙漉きが日常にある中で育つ。一度、社会人として一般企業に勤める。その後、客観的に黒谷の紙漉きを見て、手漉きで和紙をつくっているものづくりに対する姿勢に改めて魅力を感じて、黒谷に戻り紙漉きを受け継ぐ。


目次:
生きるために紙を漉く
強くて美しい紙
和紙に触れる驚き
1000年残るラブレター


生きるために紙を漉く

──なぜ、京都の黒谷で紙漉きが発展したのですか?

この紙漉きは800年前に、戦に敗れた平家の落武者がこの地に隠れ住み、生き残るための糧として始められたと聞いています。
他に畑とかね、そういう平たい場所があったらそちらで農業をすれば良かったんですけども、ご覧いただいた通り平地がないんです。それで、畑をしても作物が取れない。

でも生きていかないといけない。で、なにがあるだろうと見たら、綺麗な川がある。
楮(コウゾ)がある。じゃあ、紙漉きをして、紙を売って生きていこうと始めたのが最初だと思います。土地を開いて、平たくして畑をしようとするでもなく、黒谷にあるものを生かして紙漉きを続けていこうと繋がってきたのが黒谷です。

──もともとあった綺麗な水を生かしたんですね。

そうなんです。水はねー、すごく必要なんです。材料を作る時とか、洗う時とか。
材料を細かくするときにも、ずっと水に触れています。

だからね、紙漉きと水っていうのは切っても切れないし、この川をすごく大切に思っています。今はね、一部の工程は水道水になっているんだけど、何年前になるかな…… 15年前くらいまでは、ここの村って山の水をひく、村の水道みたいなのがあったんです。
山から流れてくる水をタンクに溜めて。昔はその水を使って紙を漉いてたんですよ。


強くて美しい紙

──黒谷和紙ならではの魅力はどんなところですか?

そうですね。基本、紙の作り方って決まってるんですよ。
何が違うかっていうと、使ってるコウゾの産地が違ってたりとか、漉き方が少し違ってたりとか。黒谷は漉きの時間が、他の産地に比べて少し長いんですね。

巻紙に関しては、京都産のコウゾを使っています。コウゾの繊維っていうのは、作る地域によって繊維の長さが微妙に違うようなんです。京都産のコウゾって太い繊維と細かい繊維がほどよくミックスされてるんです。だから、強くてある程度、目がつまる紙になるんです。そこがここならではかなと思います。

あとは、漉く時間が他より長いので、強い。丁寧に塵なんかもとってるから美しい。
これは手漉きならではですね。強くて美しい紙ができる。

──漉く時間に比例して、紙は強くなるんですか?

そうですね。薄めの材料で長く揺ってれば、紙も綺麗になるし強くもなります。
他にも、厚みとか要素はあるんですけどね。基本、揺ってる時間が長ければ繊維もよく絡みますしね。

──紙によって漉き方を変えているのですか?

そうですね。用途によって漉き方を変える工夫をしています。例えば、一定方向に繊維が絡むようにするものもあれば、全面に強くするために縦揺れと横揺れをほどよく入れたり。溜めてみたりね。ものによって漉き方をちょっとずつ変えています。

──和紙を扱う上での注意点などありますか?

強いとはいっても紙なので。濡れてギュッと引っ張ると破れます。
あと、雨にはあんまり濡らさないように、水には注意してください。直接濡れなくても、湿気の多いとことかに置いとくと、紙に斑点が出てきたりしてしまうので気をつけたほうがいいと思います。

──日光は大丈夫なんですか?

そうですね。直接日光にずっと当て続けたりしないほうがいいとは思います。


和紙に触れる驚き

──巻紙はどういう経緯で生まれたのですか?

そうですね〜。和紙ってこう、触れていただくチャンスっていうのがあんまりないんじゃないかなと思ったんですよ。便箋とか封筒とかでもいいんじゃないかなと思ったんですけど、巻紙って伸ばせばビョーンと長くなるでしょ。それってインパクトあるじゃないですか。そして、実際に持っていただいて和紙の軽さを感じてもらえる。

『和紙ってこんなに軽いんだ!』とか『こんなにデッカい和紙見たことない!』とか。
そういうことを体感していただくのに、巻紙が一番いいんじゃないかと思ったんですよ。
おっきな原紙だと持ち運びも大変だし。だから、まず持っていただいて、便箋とかにはないびっくり感があるのが巻紙かなと思って、提案させていただいたんですよ。


1000年残るラブレター

──たしかに、迫力があるし驚きますね!
作り手の目線で、巻紙の魅力や面白い使い方ってありますか?

魅力はね、ほんとに余計な手を加えていないところですね。今回作らせてもらってる巻紙は特別仕様なんですよ。(今黒谷で販売している定番の)巻紙っていうのは半紙と一緒の材料で作るんですけど、納品しているものはコウゾ100%で作っています。
500年から800年くらい保つ、黒谷でも一番使っていただきたい、特上品の紙です。
使い方はね、私もまだもったいなくて使えてなくて。ほんとは使わなきゃいけないんですけれどもね。

──すごく質にこだわってるんですね。
こんな使い方をしてほしいとかはありますか?

そうですね〜。やっぱり、1000年近く残るものだから、残していきたいことを書き留めていってほしいですかね。日記だったり、絵だったりね。
それこそ、ラブレターを書かれたら1000年残りますよ笑 素敵でしょ?
ほんとに、自分が残していきたいものを書いていただきたいですね。



つくるひと、つかうひと
#07
黒谷和紙

文:
則包怜音(油画コース)

撮影:
中田挙太

つくるひと、つかうひと
#07


和紙|山城睦子

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、京都の黒谷で紙漉きを続ける、黒谷和紙の山城睦子さんです。