つくるひと、つかうひと
#09


おりん|南條和哉さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
時代の流れに合わせてあり続ける伝統工芸。それに関わる人たちは、どのようなことを思いながら伝統をつないでいっているのでしょう?
このコンテンツでは、ひとつの工芸品について「つくるひと」と「つかうひと」それぞれのインタビューから見てみたいと思います。
今回お話を伺ったのは、180年を超える歴史を持つ南條工房7代目 南條和哉さんです。南條さんの”工芸品のある暮らし”をお話いただきました。

南條工房 南條和哉さん
180年を超える長い歴史を持つ南條工房 の7代目。
高校卒業後、料理の道に進んだ後。南條工房の音色に魅せられ23歳で転職。
2011年「京もの認定工芸士」認定。2019年にはもっと身近におりんを楽しんでもらいたいという思いから佐波理製鳴物製品のブランド「LinNe」を立ち上げる。
南條工房ならではの音を守りながら、時代に沿った新しい挑戦を続ける。


目次:
真っ直ぐな音
小さなおりん
「音色」をつくる
日常におりんの音を


真っ直ぐな音

──おりんなどの鋳物ってどうやって作られているんですか。

鋳物っていうのは土だったり砂だったり色々素材はあるんですけど、空洞を作った型の中に溶けた金属を流し込むことで成形するんです。おりんの場合も空洞のある型をまず作って、そこの中に溶けた金属を流し込むっていう感じですね。

──溶けた金属は何度くらいになるんですか?

1300度くらいですね。もうなんていうか人間の手が入る領域じゃないというか。燃えるとかではなくて溶けちゃうんですよ。そんなものが自然と固まって行くっていうのが面白いところではあるんですけどね。

──溶かす温度はどうやって調整されているんですか?

全部、勘ですね。流れ加減や光加減を見て調整しています。天候によって、晴れてる時と曇ってる時とでは見え方が変わったりもするので、手で流す時の感覚なんかも、すごく重要になってきます。

──感覚で調整するというのは職人技ですね。

エアコンの冷気だったり、風だったりが入ると金属の温度が低くなってしまうんです。だから、常にドアと窓を閉め切って作業するんですよ。冬場とかは暖かくていいんですけど、夏場とかはほんとに暑いです。だいたい60度くらいになるかな。それでも、いいものを作るためにはそれくらい徹底しないとダメですね。

──感覚で調整するというのは職人技ですね。

エアコンの冷気だったり、風だったりが入ると金属の温度が低くなってしまうんです。だから、常にドアと窓を閉め切って作業するんですよ。冬場とかは暖かくていいんですけど、夏場とかはほんとに暑いです。だいたい60度くらいになるかな。それでも、いいものを作るためにはそれくらい徹底しないとダメですね。

──南條さんにしかできない技術などはありますか。

そうですね、おりんって余韻がすごく重要で、余韻がうねるものもあれば、スっとまっすぐ伸びるものもあるんですが、うちの工房で作っているものは全部スっとまっすぐ伸びる音になっています。それはうちの音だなと思います。


小さなおりん

──「持ち運べるような小さなおりんも作られているんですね。

もともとうちの工房では神具とか仏具とかお寺さんや神社関係の商品が多いんですけど、もう少し佐波理(さはり)っていう金属の音を身近に使えないかなと思って「佐波理製の鳴り物」というコンセプトで「LinNe」というブランドを作りました。

おりんの音って聞くといい音って言ってくださるんです。けど、使うシーンが限られてるというか、基本的に仏壇の前でしか使わないものなので。お祈りするための道具っていうのはそうなんですけど、みなさんが良いって言ってくださる音をもっと普段使いできるようにしたいなと思って作りました。

──小さなおりんの特徴を教えてください。

これは「LinNe」に限ったことじゃないですけど一つ一つ手作りなので全て微妙に大きさや音色が違うんです。材料は佐波理っていう銅に錫を多量に配合した合金で作っています。

この佐波理は正倉院宝物にも使われた青銅の一種です。一般的には、錫の割合が15%〜20%なんですけど、うちでは佐波理の特徴をより引き出すために、錫の分量を一般的な割合よりも多くして工房独自の配合にしているんです。扱いはすごく難しいんですけど硬く仕上がるんですよ。この硬さによって音色と余韻が生まれるんです。

あとは「LinNe」の商品は佐波理の仕上げ方が焼き入れの色を残した仕様になっているので光の当たり具合によって色が青、青緑、黄と変化して見えるんです。音だけでなく音と共に揺れて変化するおりんの色も楽しんでもらいたいですね。


「音色」をつくる

──すーっと伸びる音が本当に美しいですね。

そうですね、うちで作っているおりんは真っ直ぐに響く音にこだわっていて工房の音があります。そしておりんの音は一つ一つ違うので音にも余韻にもそれぞれ個性があったりします。また昔から場を清めるとか、魔を払うっていう意味でもおりんの音が使われてたりします。

あとおりんの音ってリラックス効果があるとか言われているんです。医学的に特定のヘルツが良いとかで、ごく稀に何ヘルツに合わせた音のおりんを作って欲しいって言って来られるお客様もいらっしゃいます、そういう場合はご希望に合わせて調律しますね。

──調律ってどうやってされているんですか?

おりんで言ったら小さいものの方が音は高くて、大きいものの方が音は低いんです。調律するときは自分が作りたい音階に近いおりんの側面を削ることで薄くしていくんです。薄くしていくと音は低くなります。

──すーっと伸びる音が本当に美しいですね。

結構みなさんそうおっしゃいますね。実際は薄くすると音は低くなるんです。ちょっと削るだけでも音ってすごく変わるんです。なので少し削っては音を聴いて、その繰り返しで調律していきます。


日常におりんの音を

──おりんをこんなふうに使って欲しいなみたいな使い方ってありますか?

使う人がその音が好きで、それを必要とするんだったら、 自由に使ってもらえたらいいなと思っています。例えば小さいおりんの「LinNe」だったら、これまでのお客さんでも人によって色んな使い方があって、朝起きて目を覚ますために聞いたりする人もいらっしゃったし、コーヒー飲む時のリフレッシュで使ってくださる人もいらっしゃったりとか。

時間の節目として使ってくださっている方は結構いらっしゃいました。仏具の代わりというか、もう少し気軽な感じで毎朝のおはよう、みたいな感覚で仏壇の前で使ってます、っていう方もいらっしゃいましたね。あとはカバンにつけて普段から持ち運んで下さって、お墓参りとかに持っていってもらったり、本当に色んな使い方してもらっています。

最近は音が良いものだったら何でも作りたいなと思うし、仏具を作っているって考えるよりかは、 南條工房の作り方で出せる「音色」を作っているってイメージですね。 形はどうあれ僕らにしか作り出せない音色がある。 それを守るために全部の作業があるんだなって思うようになりました。

──お手入れや扱う上で注意点等はありますか?

佐波理の合金は、時間が経つにつれて深い色味へと経年変化していきます。お手入れは時々タオルなどで指紋をふき取ってもらえたらいいかなと思います。ちゃんとお手入れしてもらえると経年変化の中でより均一な飴色になっていくのでそこも楽しんでもらいたいですね。

注意点は強い衝撃が加わると割れたりヒビが入ったりすることですかね。外見には損傷がないようにみえても音色が響かなくなってしまうこともあるので気をつけてもらえたらなと思います。


つくるひと、つかうひと
#09
南條工房
南條和哉

文:
荒木桃香(クロステックデザインコース)

撮影:
中田挙太

南條工房 HP:
https://linne-orin.com/

つくるひと、つかうひと
#09


おりん|南條和哉さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
時代の流れに合わせてあり続ける伝統工芸。それに関わる人たちは、どのようなことを思いながら伝統をつないでいっているのでしょう?
このコンテンツでは、ひとつの工芸品について「つくるひと」と「つかうひと」それぞれのインタビューから見てみたいと思います。
今回お話を伺ったのは、180年を超える歴史を持つ南條工房7代目 南條和哉さんです。南條さんの”工芸品のある暮らし”をお話いただきました。