つくるひと、つかうひと
#12


おりん|奥村大祐さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、左京区にある喫茶店「喫茶とパンdo.」を営む奥村大祐さんです。地元の人に愛される喫茶店を営む、奥村さんの”工芸品のある暮らし”をお話いただきました。



奥村大祐さん
もともとモノづくりが好きで、小さい頃からの夢は、パン作りか家具を作ったりできる仕事。自分の好きな喫茶店と、得意なパン作りを生かして、手作りパンを売りながら喫茶店も営む形で、「喫茶とパンdo. 」をオープンする。
大学も近いこともあり、学生や地元の人に愛される喫茶店を経営されています。
京都にたった二人の水引職人として今も伝統を守り続ける。


落ち着いていて馴染む音

──「おりん」について使用前のイメージやご存じの知識などはどんなものがありましたか?

知識? それは、全然知らなかったですね。おりんって、あの仏壇の? あ〜、なるほど。あれと同じものなんですね。形が全然違うから、気づかなかったですね。そうか、だからこの音、落ち着くんですかね。

──そうなんですよ。すごく落ち着く音ですよね。

うん。なるほど、落ち着く理由がわかりました笑 そっか。ルーツはそういうところにあったんですね。そしたらイメージは、仏壇ですね。実家にあるものというか、生活に馴染んでいるものっていうイメージですね。馴染みすぎて、今まで意識したことがなかったな。それがでも、この形になると不思議な感じがしますね。まったく別のものみたいで。


試行錯誤の末に……

──今回は、奥村さんの生活にどのように取り入れたり、使用しましたか?
また、そのように取り入れた経緯なども教えてください。

まず、ドアベルにしたいと思っていろいろ試してみました。どうやったら、ドアベルになるかなと思って。うちのドアって、鉄でできてて、磁石がくっつくんですよ。それで、最初エル字のフックで着けてみたんです。そしたら、盲点がひとつあって。うちのドア、クッション機能があって、ゆっくーり閉まるんですよ。それで、想像以上におりんが揺れなくて。なかなか音が鳴らなかったんですよ。

──なるほど、勢いが足りなかったんですね。

そう。で、どうしたものかと考えて、このドアのところに棒とかをつけて、当てて鳴るようにしようかと考えたんです。どうしても使いたかったので笑 それで、今度は磁石を二つつけて、ひとつに引っ掛けて、ひとつに当てるといった形にしたんです。が、今度は揺れて当たった時に、想像以上にノイズになる音も鳴ってしまい、どうしようかと悩みました。

もうお手上げかと思ったんですが、要は当てるものが鉄だとノイズになるけど、ゴムとかだといいんじゃないかと思って、テープで吊るして当たるところにクッションを作ってあげたんです。そしたら、ドアの開け閉めの時に良い音が鳴るようになりました!


良い音と仕事ができる

──ドアベルとして機能したんですね!

うん。なんとか形になりました。それでね。今コロナでしょ。よくよく考えたら、最近ドアを開いて換気していることが多いんです。そしたら、このドアベルとして機能がなくなっちゃって。もったいないなと思ったんです。それで、ドアベルで着けていない時にどんなことができるか考えてみたんです。

──いろいろ、試していただいたんですね!どんな使い方を発見しましたか?

うちに置いている冊子のおもしとして、置いてみました。見た目もオシャレだし、冊子をお客さんが取った時に、おりんの良い音が鳴るんですよ。そしたら、普通に仕事してる時でも、チリンって良い音が聞こえてきて、「あ〜いい音だなぁ」と思いながら仕事ができて、とてもよかったです。吊ってもよし、置いておくだけでもよしと、いろいろな可能性を感じました。


昔からそこにある音

──使ってみた感想や気づきを教えてください。

仏壇、仏具としてのおりんを今まで意識してみたことがなかったのもそうだし、こうやって音色に注目することで、楽器ではないけど、そのものが出す音に惚れたり、いろいろな可能性を感じました。ドアベルにするのは大変だったし、こうやって使うものでは無いのかもしれないけど、良い形にできたかなと思っています。

それは、やっぱりこのおりんの音が良くて、使いたい!って思わせるだけの力があったからだと思います。ものに突き動かされたって感じです。あとは、何回も言っちゃうけど、やっぱり良い音だなって思います。聞いていて落ち着いて、すんなり馴染むのは日本に昔からある音だからなんだろうな〜。

──そうですね〜。日本人の心に響く音ですよね。

うん。そうだと思うよ。音っていう視点でおりんを見てみて、今までよりももっと深くその物を知れた感じがして、とても良い機会になりました。

──さいごにあなた独自の視点で、この「おりん」に星をつけてください。

そうだなぁ。えーとね、「気持ちが安らぐ度」★★★★★。
あと「心に余裕が生まれる度」★★★★★。いっぱくおくみたいなね。
それと、音に注目したことで、「おりんの良さを再発見した度」★★★★★です。


つくるひと、つかうひと
#12
喫茶とパンdo.
奥村大祐

文:
則包怜音(油画コース)

喫茶とパンdo. Instagram:
https://www.instagram.com/kissatopando/

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おりん|奥村大祐さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、左京区にある喫茶店「喫茶とパンdo.」を営む奥村大祐さんです。地元の人に愛される喫茶店を営む、奥村さんの”工芸品のある暮らし”をお話いただきました。