京都のスープ
#07


京・東寺うね乃本店

「主役は、名脇役がいるからこそ輝くものです。私たちは主役には絶対なったらあかんと思ってます。」
自らを「出汁馬鹿」と呼ぶ采野 元英(もとふさ)社長さんと、副社長でおられる奥様の佳子(よしこ)さんに、お話を伺いました。

1300年続く文化

料理屋さんや全国の小学校など、様々なところにおだしを納められている「京・東寺うね乃本店」。

京都を代表するお寺のひとつ、五重塔があることで有名な東寺。その東寺から歩いて15分程のところに、うね乃さんはあります。

明治初期、うね乃さんのルーツは滋賀県、元々はお米の庄屋でした。そこから二代目(元英さんの祖父)が当時、都であった京都に拠点を移し、“だし屋“を始められたそうです。

また、うね乃さんでは昭和初期以前から社寺御用達として全国に鰹や昆布を納められています。大和民族の唯一のタンパク質と、食料の源になるものの代表であった鰹、昆布、海苔、お米、お酒。これらは全て神様、伊勢神宮への捧げ物でした。

特に鰹は、古事記にも登場するほど古くから重宝されているものです。五穀豊穰・子孫繁栄を願い、現在でも各地の寺社仏閣では鰹節や昆布などをお供えされているそうです。

↑ 左:まだお米の庄屋だった頃用いていた石臼の原動力の水車の一部。真ん中:100年以上前にかけられていた「諸国かつおぶし」と書かれた看板。「諸国」とは、当時は様々な土地からかつおぶしを集めていたという意味。

「京都は都やった分ね、食文化っていうのは洗練されたものやと思うんやけど、『名物にうまいもんなし』っていう言葉の通り、その土地の人が美味しいと思えば良いやん。」

また、佳子さんは「食も文化です。見せかけの文化ではなく、心がないと文化は続かないと思うねん。だから、私たちは“ほんまもん”を提案したいと思ってます。」

と、私たちが普段深く考えていなかった、“文化”の意味を教えて下さいました。

うね乃さんでは、社寺にご奉納される他にお料理屋さんや全国の小学校などにも、おだしを納められています。また、ワークショップなども開催されており、特に小さなお子さんを持つ親世代の人達からの申し込みが多いそうです。


職人の勘

うね乃本店には、鰹節を削るための工場が併設されています。最近新しく建てられたという工場は3階建の木造建築。うね乃さんでは、全自動の削り器と、「鳥羽式」という先々代から使われているというかつお節削り器を使用されています。12枚の鉄の刃金を0.1ミリ単位で均一に合わせるため、職人さんは自分の勘が頼りになります。

そして削りも鰹節ひとつひとつで違ってくるそうで、この削りを習得するのに10年はかかるといいます。

「昔の人は、感覚でやってた。カンカン、カンカンってやって、良いと思ったものを測ったらその数値やったっていうだけ。今は数字をめがけてやろうとするから、いい技術がなくなるの。職人の勘っていうのは日々アップデートしていってるもんやとおもうけど、数字に頼ってしまったら失われていくもんよね。だからうちらは手に戻ろうってなってる。うちの職人も日々上手になっていってる。音も、叩き方も、入ってきた頃と比べたら、断然今のほうがかっこいいんです。」

鳥羽式で削るかつお節は、全自動のものよりも効率は悪いそうですが、少ない分量で濃く、良い出汁が出るといいます。職人の手によって研がれた鉄の刃、そして鳥羽式の削り器で削られるかつお節は、良い食感、見た目も美しいかつお節となります。

かつお節を削っている職人さんの表情は真剣で、凛とした空気を感じました。


素材を持ち上げる最高の脇役

「お料理はおだしが決めて!」の生みの親であり、京都で唯一の“だし屋さん”でもあるうね乃さん。

おだしは、「決して主役になってはいけない」とおっしゃいます。

「主役になってしまったら、すぐに飽きられて終わってしまう。僕が考えるだしは、入れないと物足りなくて、入れると豊かやなっていうものになるのが、だしだと思ってます。主役は、名脇役がいるからこそ輝くものです。」

うね乃さんで作られるおだしは、添加物が一切入っていません。

市販のものと比べると薄く感じるかもしれませんが、それは、余分なものが入っていない証拠でもあります。日本の“ほんまもん”を守っておられるうね乃さんのようなお店が、グローバル化が進み、世界が近くなっている今の日本で求められているのだと思いました。

鰹や昆布、添加物を一切使用していないという「おだしのパックじん」シリーズなど、店内には様々なおだしの商品が並びます。

「日本っていうのは歴史が長い国ですよね。歴史は繰り返すってよく言いますけど、新しいことを考えようとしても、必ず昔の人がやってはったことと同じことをしてるんちゃうかなって。個人的には、古いものは新しく、新しいものは古いと思ってる。だから、何かにつまずいたら必ずうちのじいちゃんがやってたかなって、明治に戻る。明治の人の知恵とか考え方とかを見直して、進んでいます。」

滋賀で生まれたうね乃さんは、京都で根を張り、歩み続けています。

「うちのじいちゃんが守ってきたままの姿のだし屋を、うちも守っていきたいです。」

と温かな笑顔でお話しして下さいました。


京都のスープ
#07
京・東寺うね乃本店

文:
鈴木日奈恵(基礎美術コース)

京・東寺うね乃本店 HP:
https://odashi.com/

京都のスープ
#07


京・東寺うね乃本店

「主役は、名脇役がいるからこそ輝くものです。私たちは主役には絶対なったらあかんと思ってます。」
自らを「出汁馬鹿」と呼ぶ采野 元英(もとふさ)社長さんと、副社長でおられる奥様の佳子(よしこ)さんに、お話を伺いました。