京都の柄はギンガムチェックだ
溝部:
京都に住まれて何年になるんですか?
酒井:
18年くらい。大学からずっと住んでます。
溝部:
なぜ京都にずっといるんですか。気になります。
酒井:
理由はないです。
卒業して京都で仕事してたから? 今働いている大学も京都。どこの県で暮らしたいとか皆考えてるものですか?僕はそういうことには無関心です。すみません。
けど、今は良かったと思ってます。とても面白い。
溝部:
Whole Love Kyoto(以下WLK)のシンボルマークは京都の碁盤の目を表しているんですよね。
酒井:
そうです。
ちなみにWhole Love Kyotoという名前は僕が考えたのではなくて、「くるり」というバンドの岸田くん。
Whole Love Kyotoという音楽のイベントが京都であって、その時にグッヅのデザインを担当したんですけど、その時にこの碁盤の目のギンガムチェックをメインビジュアルとして使いました。
四条で打ち合わせをして、自転車を漕ぎ、三条のイノダコーヒーへ行ってドーナツテーブルに座って考えている時に思いつきました。打ち合わせ後の1時間くらい。
「京都」をファッション化させたかったんです。
碁盤の目は特におしゃれではないです。囲碁でしょう?でもギンガムチェックにすることでかわいく、おしゃれになります。「京都の柄はギンガムチェックだ」っていう風に見立てて、浸透させることができたら、京都のブランディングのシンボルになるな、と。
溝部:
そうだったんですね!
WLKに関わってからチェック柄を見ると、WLKや!京都や!って反応してしまいます。目がいく。
酒井:
それは今のところ、君だけですね(笑)
溝部:
服を選ぶ時にギンガムのものを手に取っても、WLKの制服のように感じて普段着として買えない(笑)ギンガム可愛い。
酒井:
手ぬぐいが商品として出ましたよね。
溝部:
ギンガム柄の手ぬぐい…… かわいいですね。
酒井:
「京都」をリサーチして作り上げた、手ぬぐいシリーズの1つとして販売しました。
本当のMade in Japanの価値とは?
溝部:
WLKは京都でどんな活動をしていますか。
酒井:
HANAO SHOESから始まり、京都の伝統工芸や歴史を味方につけて、それらをファッション化させるということです。
そして欧米の人たちにもう一度よく見てもらうということを製品を買っていただくことによって実現したいと思ってやっています。
溝部:
活動の中で大事にしていることや、こだわりはなんですか。
酒井:
客観的には何を大事にしてるように見えてますか?
溝部:
HANAO SHOESをお客様に薦める時、国産品であることを一番言っていると思います。
酒井:
なるほど。製品の全てはMade in Japan。
溝部:
今、グローバルな世界で身の回りは輸入品で溢れてて、その反面 Made in Japanという文字を最近よく見かけるんですけど、その強みってなんですかね。
酒井:
本当に人が豊かに生活しようとした時「その場所で作られたもの」っていうことが大事だと思う。
自分が釣った魚や自分が育てた野菜、とても美味しいでしょ。自分の友達に髪切ってもらったら嬉しいし。服も、おばあちゃんが手編みで作ってくれたセーターが嬉しいよね。
昔は作っている人の顔を知ってて、無意識の安心に繋がっていました。今は知らなくて安心できない世の中。安心・信頼というのが昔は強かったように感じます。
魚屋さんの顔も知ってたし、その魚屋さんは漁師さんの顔を知っている。でも今はとても遠い。それは実は豊かな生活とは遠いと思います。
「ムーンスター」(靴)の工場見学にも行けて、仕事してる人たちの顔を僕たち作る側が知っている。鼻緒の仕入れ先の鼻緒屋さんの顔も知っている。これは国産のもので作るから出来ることだと思う。
これが自分たちとしては、Made in japanの価値じゃないかな。
当たり前のことを当たり前にするということが大事だけど、それよりもこれまで50年くらいは、効率・お金・コストということを最優先にしてきたんですね。
あと外国で肌で感じられることとしては、Made in Japanという言葉の価値は高いです。こないだも欧米のものをバイリングして輸入していた人と話をしたけど、「外国のものづくりや工房を知れば知るほどMade in japanのすごさを知った」と言っていました。日本の方がすごいっていうことを単純に思ったって。
京都に感謝し、感謝されるブランドになりたい
溝部:
このWLKの活動に加わって、日本には靴を作る工場が3社しかないことや、鼻緒を作る職人さんが京都には1人もいないってことを初めて知りました。
今まで身の回りにあるものがどこで作られているかということを考えたり、調べることもなかったし、京都は伝統工芸が盛んで、職人さんのいる街のイメージだったからびっくりしました。
酒井:
京都に鼻緒を作る職人が0なのは僕も聞いたときほんと驚いた。
溝部:
以前草履の職人さんとお話をした時に、本当に京都に1人も鼻緒の職人がいないのか聞いたんです。そしたら「京都は昔、御所に天皇さんがいはったからチマチマした細かい仕事というよりも他県から仕入れたものを組み合わせて仕上げたり、最終の仕事をする職人さんがいる文化の街」だったみたいで、その文化の名残が残っているそうなんです。
酒井:
それならそのままでもいいのかもね。
でも皆のイメージとしては京都に鼻緒の職人はいるし、今は天皇さんもいらっしゃらないから、職人がいてもいいね?
今、京都に鼻緒職人がいた方が僕らはとても助かる。跡継ぎがいないとか、買う人がいないなどの理由で伝統工芸が衰退している。職人さんは何をモチベーションにそんな中で頑張れるのか分からない。
僕はいいことをしたいという気持ちはあまりないんだけど、ただ、職人さんをいじるというか、刺激するというか、コミュニケーションしながら、お互い頑張れる理由を作れたらいいなとは思います。
溝部:
普段誰もつつかない所を突くんですね。
酒井:
そこを突ついて行けば京都に感謝されるブランドになれるんじゃないのかな。どうでしょう。
溝部:
以前京うちわの職人さんに「うちわを作るにあたって、加工する職人が店をたたむというので、1人を1年間修行に行かせ、今その人がここで竹の加工をしている」という話をお聞きし、密かに伝統工芸を学ぶことができる学校から鼻緒の職人を生み出せないかなと考えているんです。
職人の仕事は無くならないし、Whole Love Kyoto専門の鼻緒職人になったら安定してお金を稼げるし、ものを作り続けることができて、それが商品として出る。そして京都に鼻緒を作る技術が残る。
私たちも助かってお互い良いなと思います。
酒井:
Whole Love Kyotoのメンバーも一般から募集したいね。ものは作れないけど、計算できる人、文章を書くのが得意な人、プレゼンが得意な人もいる。そういう人たちが出会って何かを生み出せたら、もっといいと思う。
得意分野が混ざり合う場所を作りたいとはいつも思います。狭いところでやってると視野がやっぱり狭くなってしまうし。
溝部:
それにそこだけで、完結してしまいますしね。
酒井:
混ざり合うこと、ボーダーを越えることが面白い物事を生みます。
About Whole Love Kyoto
#02
KYOTO T5 センター長
酒井洋輔
文:
溝部千花(空間デザインコース)
ブランドの監修を務める当センター長 酒井洋輔(空間演出デザイン学科 准教授、株式会社CHIMASKI代表)に、ファッションという観点から、ブランドの誕生秘話についてお話を聞きました。