普段の生活でおしゃれに履ける靴
溝部:
鼻緒が靴についているのはとても斬新なアイデアじゃないですか。年代によっても反応は違うし、お金を持ってる持ってないでも反応は違うし。
催事を繰り返し行う中で京都をファッション化させたことに対するお客様の反応はいかがですか。
酒井:
「そんな反応する?」みたいに驚いたという記憶はないですね。HANAO SHOESってギャグという風に見ようと思えば見えるし、そういう反応があるのは想像していました。
じゃあ、ギャグに見えないようにしたいと思った。それで鼻緒の説明を用意したり、ギャグではないということを一番簡単に伝えるのが「値段」。中国産の靴を使ったら、安く売ることもできたけど、国産を選んで「値段」は高くなりました。職人さんにインタビューしてフリーペーパーを作ったり。
ネガティブな反応を予測して、ポジティブな反応に変換するには、信頼してもらえるためには、何が必要かを考えました。反応どうですか?
溝部:
藤井大丸での催事の時、年配の方は「面白いわね~、斬新ね~」とあまり寄り付かず、20~30代の方に多く買っていただいた印象でした。
すると今年の都をどりで販売した時に「去年飾ってたね。販売されるのを待っていたのよ」とお声をかけていただけたり、最高年齢70歳の方に購入していただけて、上の層の方達にも自分達の活動を見ていただけて、共感してもらえたり、いいねと言ってもらえるというのが実感できて、とても嬉しくあたたかい気持ちになりました。
酒井:
うんうん。
当初、発売は藤井大丸じゃなくて髙島屋という候補も僕らにはありました。藤井大丸を選んだのは、まず若い人たちに「ファッション」として履いて欲しかったから。 50、60歳の層で流行ってしまったら若者は履かなくなると思った。お金を持ってなくて買ってくれるか分からないけど、藤井大丸の層を選んだ。
それから、京都にはレンタル着物屋さんが沢山ある。そこに紹介するという選択肢もあった。でもそこで履かれるようになると、HANAO SHOESは「観光客が履くもの」になってしまう。それは困る。そんな表層的なものにしたくなかった。
普段の生活でおしゃれに履けるものじゃないと、この靴は面白くない。自分が誇りに思えるものじゃないと、と思いました。
このWhole Love Kyotoをやってて「あぁ、観光客が履くやつね」って言われたら、がっかり。そうなるんだったらMade in Japanじゃなくていい。という気持ちがありました。
くだらないことを楽しくするのがデザイン
溝部:
何が原動力になってるんですか?
酒井:
自分たちが楽しいとかやりがいを感じることです。やりがいがあればお金なんていらないですよ。
何割の人が自分が本当にいいと思うことを仕事としてやれてるのか疑問です。服を売るにせよ、家を売るにせよ「いいですよ」というのは本心なのか、と思う。本当にお薦めだと言いたいだろうし、誇りを持てるというのが大事だと思う。
溝部:
私もやりがいでの反動が大きいです。
どんな環境にいても、自分次第でやりがいを感じることが出来るんだろうなと最近思います。
酒井:
楽しいとか、やりがいっていうのは、自分で見つけることができる。見つけられるように育てるのが芸大の仕事だと思います。
なんで芸大の仕事かというと、この間、不動産屋さんに「仕事楽しいですか?」と聞いたら、「仕事楽しい人なんているんですか?」と衝撃的な言葉が返ってきた。
切なさでジーンとした。
「あぁ、そっか。これがメジャーな考えなんだ」と思った。自分はマイノリティーなんだと思った。でも、そういう人たちに売れないとダメ。僕みたいなマイノリティーに売れてもダメなんです。
ほとんどの人にとったら「仕事なんて楽しくなくて当たり前。みんなそうでしょ」という考えだけど、そういう人たちを僕らは相手にして商売をしないといけない。そういう人たちの意識を少しでも変えられたら、やってる意味はあるし。変えていかないと伝統工芸という非効率的で時代遅れなものは滅びてしまいます。
溝部:
最近就職のことを友達と話をするとき「なんで大人ってつまんなさそうに仕事してるんやろ。やってる仕事が好きじゃないんかな」という話をよくします。
酒井:
その人たちってやる仕事が決まってるんだろうね。自分で仕事をつくってない。だからある程度、仕方ないのかもしれません。
でも、どうせやるなら楽しいと思ってやれた方がいいよ。そういう力を学生に養わせたいと思います。学生って「意味がない。おもしろくない」と言って、学校に来なくなる。そうじゃなくて、くだらないことを楽しくするのがデザインの仕事だろうと思う。ノート1つ取るにせよ、楽しくできるはず。そうしたらノートが溜まっていくのが楽しくなる。
溝部:
ものの見方を変えるのは自分自身ですね。
酒井:
もの作りをする時に、1番ハードルだと思っているのは自分のモチベーションです。
学生だったら3ヶ月に1つ作品を作ってプレゼンしないといけない。プレゼンテーションは自分が「良い!」と思ってないと伝わらない。自分がいいと思うものを「みんなに聞いて欲しい」という気持ちになれたらだいたい良いプレゼンですよ。いくら言葉が下手でも、声が小さくても。
けど、そこにたどり着くまでの大きなハードルが自分のモチベーションなんです。まず、いいアイデアが思い浮かんでテンションが上がる。次に作り始めたらつまづく。つまづいてその時に終わったら良いプレゼンテーションは失くなるわけです。
溝部:
自分をコントロールするんですか。
酒井:
うん、簡単ですよ。
例えば、ポストカード1枚作る時に、画面で見ててもわからない。実際の大きさ、実際の厚みに印刷すると「お!ポストカードっぽい」と嬉しくなる。それが自分のコントロール。
画面だけでやっているとどんどんモチベーションが下がっていく。自分に、かっこいいものを作っていると思わせないといけない。自分を騙して、かっこいいものを作っていると思うから、楽しい。
他の方法としてはアイデアを3つ出して全部同時進行でやっていけば2つダメになってももう1つは伸びていくから落ち込まない。自分がいい状態で作っていくというのが難しい。
溝部:
今の話でプレゼンについての話を思い出しました。魔鏡を作る山本さんが「時代に合わせて、プレゼンの仕方を変えていけば古いものでも新しくなる」というふうに仰られていて、作家さんと一緒に作ることで展覧会というプレゼンができると話されていました。
そして私たちWhole Love Kyotoは催事の売り場がプレゼンになると。
自分の作品をプレゼンするまでのモチベーションと、自分たちとの活動が重なると感じました。
買っていただくお客様にプレゼンするまでに何が必要で、何をすべきなのかを考えてブランディングしていくこと。
酒井:
一緒です。自分自身もブランディングなんです。キャラってあるでしょ。あれってブランドのことです。
About Whole Love Kyoto
#03
KYOTO T5 センター長
酒井洋輔
文:
溝部千花(空間デザインコース)
ブランドの監修を務める当センター長 酒井洋輔(空間演出デザイン学科 准教授、株式会社CHIMASKI代表)に、ファッションという観点から、ブランドの誕生秘話についてお話を聞きました。