About Whole Love Kyoto
#04


日本人で良かったという誇りを持ちたい

「HANAO SHOES」を生んだWhole Love Kyoto。「OLD IS NEW 古いものは新しい」をテーマに、京都でつくることにこだわっています。

ブランドの監修を務める当センター長 酒井洋輔(空間演出デザイン学科 准教授、株式会社CHIMASKI代表)に、ファッションという観点から、ブランドの誕生秘話についてお話を聞きました。

その場所にしかないものに出会いたい

溝部:HANAO SHOESはどこで買うことができますか。

酒井
Whole Love Kyotoのお店(兼スタジオ)とwebサイトで買うことができます。

他には催事で買えますけど、できるだけ京都でしか買えないようにしたいなと考えています。一澤信三郎帆布の信三郎さんが京都で作って京都でしか売らない。その姿勢と考えていることが好き。

あと自分が海外で買ったものが日本で売ってた時の悲しさ。そこの場所にしかないものに出会いたいという気持ちがあります。その土地に行って、その土地独特の、そこにしかないものがある方が絶対楽しい。

溝部
今は認知してもらうために東京などでの催事がありますね。

酒井
自分たちがやっていることは「京都のブランディング」。
イタリアだったらグッチやプラダというハイブランドがあって、そこは革の職人を沢山抱えています。パリだったらエルメス。

売上の規模がすごい。京都の伝統工芸は全然太刀打ちできない。でも、ものづくりに対する想いや技、素材へのこだわり、面白さは京都の工芸も負けてません。すんごいのに全然認知されていない。というのはブランディングの差かなと思うと、自分はそういうビジョンでやりたいと思います。

CHIMASKI STUDIO(京都 左京区)

溝部
伝統工芸が認知されていないということは海外に行かれて感じたことですか。

酒井
海外の人たちには全然伝わってないですよ。
風呂敷は知ってる(笑)。だからWLKは欧米でプラダやエルメスみたいになれるんじゃないのと思うんですよ、本当に。

今の日本のファッションって西洋から入ってきたものでしょう。だけど舞妓さんの髪飾りとかとても素敵。舞妓さんの首の後ろのラインとかとてもお洒落。昔それを考えた日本人はすごい。京都の文化のかっこよさをもっと知ってほしいと思います。

日本の空港はダサいんですけど、自分がストックホルムに行った時、空港がとてもお洒落だったのが印象に残っています。国の玄関。ワクワク感がある。

到着ロビーに行くまでの通路にポスターがずっと貼られていて、人の顔の写真があってその下に“Welcome to our hometown”と大きく書いてあったんです。そして小さくその人がどういう人かが書いてありました。

小説家だったり、音楽家だったり、みんなストックホルム出身の人たち。そのポスターがずっと先まで貼られていて最後に“Welcome to Stockholm”と書いてある、とても大きな壁があって到着ロビーに出る。

それを見た時にすごく良いと思った。ストックホルムの人たちが自分の国に誇りを持っているように感じた。日本もこういうことしないと!と思いました。

だからWLKは空港を狙ってます。
日本に到着した時にドーンっとHANAO SHOESが100種類ほど並んでて“Welcome to Japan”と。日本は東洋でとても小さな島。そこで生み出されている文化はすごい。浮世絵にしたって、侍、わびさび。

全然派手なものではないけど、でもそこに、そこにしかないものがあるとワクワクして外国人は来る。その時に空港が玄関として大切なポイントになります。

溝部
その人にとっては日本の初まりが空港ですもんね。

酒井
そう。そこにHANAO SHOESがずらっとあってほしいな。夢ですね。

溝部
並べたいです。

酒井
それで知名度が上がるとか、売上が上がるとかじゃなくて、並べたい。面白いから。

とはいえ、どうしたら買ってもらえるかは真剣に考えないといけない。買ってもらうってことは投票よりも重たいです。もしみんながゼブンイレブンに行かなかったら潰れる。そしたら世界は変わる。

アマゾンで買い物しなくなったら世界は変わる。政治家が誰になるかよりも、自分が何をどこで買うかが大事。

自分の好きな店が潰れて、隣のまずいお店が残っていたりするとガーンです。それってそっちの方が売れたってこと。やっぱり売れないといけない。

溝部
唐長の千田さんも「時代のニーズに合わせて売れるものを作っている」と仰られていました。
売るってことを第一に考えるのは芸大生は不得意だから、一般の人の方が売れるものを作るそうなんです。

酒井
芸大生はどうしても自分がやりたいことが前に出るからね。売るということが一番のコミュニケーションだから、買ったものは大事。

自分が汗水たらして働いて買ったものの方を大事にする。だから僕たちはHANAO SHOESが1足売れた時にもっと感謝しないといけないですね。


「日本人で良かった」

溝部
WLKはどういうブランドに。

酒井
京都に来る人にとって「WLKに行きたい」「あそこにいけば、あの人の喜ぶものが買えるだろう」と思われる店になりたいです。

京都の職人さんにとったら「あいつらメチャクチャなこと言いよるわ」と思われるのが良いんじゃないかな。「あいつらは迷惑かけて来るけど、なんかええよな」ていうのがいちばんいい感じな状態。

ブランドってものを作ることだけじゃないからね。目に見えないものを作って行くことの方が多いです。目に見えないものには大事なことがいっぱいあります。勇気とか、愛とか。

大事なものは目に見えないんです。だからものを作ることを通して僕らは目に見えないものを人に届けていると思います。

溝部
なるほど。大事なものは目に見えないから不安になったりするんですね。

酒井
うんうん。
一番みんなが欲しいのは、自信だと思います。これも目に見えない。

この間、WLKのメンバーの1人が「この活動をしてて、日本人で良かったと思うようになった」って言っていた。とても良いことだと思う。

日本人で良かったという誇りでしょ。目に見えないです。嬉しいことです。それをその子だけじゃなくて、WLKの製品を買った人にそう思わせることもできると思うんですよ。日本人で良かったと思う人が増えて欲しい。

海外から来た人がたまたま道を尋ねた時に、「日本人で良かった」と思っている人に話を聞くのと、「日本人ダサいな」と思っている人に聞くのとでは全然違うはず。

旅行って観光地を廻ることじゃなく、大事なのはそこに住んでいる人と触れ合う瞬間。東京オリンピックで日本に来た時、どういう人に出会うかでその人の中の日本のイメージが決まる。その時に、日本人であることに誇りを持っている人に会って欲しい。

僕はWLKをやってて良かったことは沢山あるけど、「日本人で良かった」という言葉はかなり上位です。すごい可能性を感じた。WLKの。 表層派の恋するピチピチギャル19歳の言葉です。本来は「ネオン可愛い~。パステル可愛い~」って言ってるはずの歳。60歳が言ってるのとでは全然違う。だから可能性を感じます。

溝部
WLKのこれからをどうお考えですか。

酒井
これからのWLKを考えると、そういう気持ちが大事だと思います。ものを売るだけじゃなくて、そのことによって人の心を変えたい。

溝部
人の目に見えない部分を。

酒井
「目に見えない」って言葉気に入ったんでしょ。

溝部
気に入りました(笑)今日は沢山のお話ありがとうございました。

酒井
ありがとうございました。


About Whole Love Kyoto
#04
KYOTO T5 センター長
酒井洋輔

文:
溝部千花(空間デザインコース)

About Whole Love Kyoto
#04


日本人で良かったという誇りを持ちたい

「HANAO SHOES」を生んだWhole Love Kyoto。「OLD IS NEW 古いものは新しい」をテーマに、京都でつくることにこだわっています。

ブランドの監修を務める当センター長 酒井洋輔(空間演出デザイン学科 准教授、株式会社CHIMASKI代表)に、ファッションという観点から、ブランドの誕生秘話についてお話を聞きました。