About “KUROMONTSUKI”
はじめに、Whole Love Kyotoのスタッフに、KUROMONTSUKIが誕生したきっかけを聞きました。(以下 Whole Love Kyotoスタッフ)
「鼻緒職人さんと他の伝統工芸の職人さんの技術を合わせて、これまでに存在していなかったような鼻緒を生み出し、それを使ったHANAO SHOESを制作、販売する」企画です。
今まで鼻緒の形に仕立ててもらったことがなかったり、鼻緒にしたことがない素材だったりもするので、この企画では職人さんにいつも新しい挑戦としてご協力していただいています。HANAO SHOESが職人さん同士を、また、購入してくださるお客さんたちをつないでいく。そういったコンセプトがあります。
──このHANAO SHOES Craftsmanには、落語立川流の定紋が入っていますが?
そうですね。「KUROMONTSUKI」を制作するきっかけになったのは、落語家の立川志の輔さんが京都芸術大学の春秋座で10年目の講演をされる時でした。志の輔さんは、舞台に立たれる時に紋付を着られていて、紋を背負って舞台に立っている姿が、すごくかっこいいんです。
HANAO SHOES Craftsmanで黒紋付を取り上げて、紋に志の輔さんの紋を入れることはすごく意味を持つんじゃないか、と思いました。
志の輔さんが春秋座に来られた時に直接お手紙を書いて、依頼をしました。
快く「ぜひ、つくってください」と言っていただけて、お手紙もお返事を下さって。
志の輔さんの優しさに、すっかりファンになりました。
その時、ちょうど呉服業界、着物業界の方とお話しする機会があったんです。
工芸の世界って困窮しているって言われているけど、特に呉服業界の困窮している様を目の当たりにしました。
「ほんまもん」じゃない着物がたくさん出回っていたり、実質手で刷っているものよりインクジェットの方が利益が出るような仕組みになっていたり。着物、浴衣は高いものという認識があるけど、実際職人さんへの利益はとても少なくて。「単価が高いし儲かっている」と思われがちですが、実は現状がそうではないんです。
──企画から実際に販売するまで、どれくらいの期間かかりましたか?
急ピッチで進めました。志の輔さんが独演会されると聞いて、このタイミングで、私自身が考えてた呉服業界への思いを形にする機会だ! と思って。独演会の2ヶ月前にすぐに動いて、職人さんにもたくさんご相談しました。
実際に志の輔さんにお会いしてお願いした時は、黒地の鼻緒に紙で紋のイメージを貼ったものをお見せしました。快くご承諾をいただいて、いざ形にしていけるとなったんですが、その時の藤崎染工さんの工房は、都合上週に一回くらいしか工房が開かなかったんです。それでもすごく親身になって動いていただいて…。
HANAO SHOES Craftsmanに関しては、染めていただいたものを鼻緒職人さんのところにお渡しして仕立ててもらわないといけないので、その期間も含めても、半年もかからないくらいですね。翌年の講演会では完成形を発売させていただきました。
そのスピード感で発表できたのも、まさに「信頼関係」があったからです。職人さんとのつながりであったり…。本当に、職人さんが優しかったです。
工房に相談にしにいっても「まだできるか分からないんです」というような状態だったのに、「言ってくれればいつでも動けるようにしておきます!」と言っていただけて。万全の体制で待ってくださっていました。
若者が突然やってきて、「着物だったものを履き物にしたいです!」って、ちょっと意味不明なことを言ったにもかかわらず、すごく前のめりに話を聞いてくださって。私たちのような若者に対しても、親身に話を聞いてくださる職人さんがいるって、本当に素敵なことですよね。
誕生までの出会い
ここからは、実際に「KUROMONTSUKI」を手掛けていただいた藤崎染工 藤崎照治さんからお話を伺いました。(以下 藤崎染工 藤崎さん)
──HANAO SHOESを作りたいと依頼をされた時、どう思われましたか?
「まさかそこに?」っていう、驚きが大きかったです。
僕らの中の鼻緒のイメージって「無地なもの」だったので、固定概念を覆されました。
ものづくりって、ざっくりですけど、アイデアを出す人、ものを作る人…… みたいな仕事分担があるじゃないですか。
僕たちはものを作る人なので、アイデアや発想を出すことってなかなかないんです。「こういうのを染められますよ」っていうことは提案できるんですけど、これを新しく加えるという発想は思いつかないんです。
──これまで決まった部分に紋を入れることが主だったと思うのですが、紋が足元に来ることで、新しい発見などはありましたか?
紋付は、普段は「和装」をメインでやっていて、アパレル系のお話をして仕事に携わった時に、考え方の違いを感じましたね。
「色むらがあったとしても、それが味だから」という風におっしゃられる場面が増えました。その時々の楽しみ方としての認識ですよね。僕らにはない思考でした。元々僕らは「きれいにムラなく染める」ことが根本的なスタンスだったので、それが全く真逆のことを言ってくださるんですよね。デニムなどにもある「色落ちを楽しむ」という楽しみ方を、黒紋付にも見出しているんだな、と。
今回のお話をいただいたときも、色が落ちる可能性があることを説明したんです。これまでの紋付って、太陽の下で長時間身につけることはなかなかないんですよね。展示で飾ると照明なんかで焼けて、色が変わっちゃうんですよ。そういう色の変化が起こることを説明させていただきました。
シューズなので長時間履くし、長く使われるものなので僕らは心配だったんですけど。洋装の方とお仕事をさせてもらえるっていうのは、考え方の違いをすごく感じますね。
──和装と洋装、考えてみると、ギャップが大きいですよね。
180度ガラリと違うというか……。正反対場所にありますよね。
例えば呉服しかり、そのほかの色を扱う仕事だと、「見本の色に近づける」ことが当たり前にあるんですよ。僕らの場合は黒色なので、いろんな色を混ぜて黒にするんです。
今回はやっている工程は同じであっても、使われる状況下が違うので。足元に家紋って、なかなかないデザインじゃないですか。最近だとデニムにワンポイントとして紋を入れているものだったり、ハンカチやスマホケースに入ってるものは見たことありますけど、今まで家紋って言われると、「胸紋二つと背紋」がごく当たり前。
まさか靴に紋が来るなんて、今まで見たことなかったですよね。驚きと「そういう考え方があるんだな」って思いました。ハンカチなんかはなんとなく、形が想像できるというか…。HANAO SHOESは想像ができなかったです。それも含めて面白かったですね。
──Whole Love Kyotoの取り組みについて、どう思われますか?
「伝える」ことって、大事だと思うんです。伝えないと、メッセージっていうものがなくなってしまう。業界の中だけで言っていても、広まらないじゃないですか。これをおこたってしまったら、もう文化が途絶えてしまいますから。
あと30年後を考えると、もう終わっているかもしれない。継承されていかないと、減っていくことも事実。そう言った面で、伝える方の存在は必要不可欠なんですよね。伝えていかないと、未来にはこの文化が消えかかってしまうので。
Made in Kyotoにこだわって、京都の伝統に携わる職人さんの技術をファッションに落とし込むブランドということを聞いたときは「なんていい取り組みなんだろう」と思いましたね。なかなかそういう部分にフォーカスを当ててくださることってないですよ。
形が想像できないものを形に
「KUROMONTSUKI」を制作するにあたって計画段階から複数の職人さんとお話しすることができたことでよりこの企画の意義を確認できたとWhole Love Kyotoのスタッフは言います。(以下 Whole Love Kyotoスタッフ)
──他のCraftsmanシリーズとは違う発見などはありましたか?
Craftsmanシリーズで黒紋付に挑戦しようと思ったとき、最初に藤崎さんにお話をしに行きました。その時に藤崎染工さんがいつもお世話になっている紋付にするための生地を用意してくださる方もいらっしゃって、生地についての相談や、準備をしていただきました。
ここでまず、生地の関連の方にも関わっていただけるのか! ということを体感しました。
また、藤崎染工さんの工房は、染めの職人さんが一階にいて、二階には染めた後に紋を入れる職人さんがいらっしゃるんです。
一つの建物にたくさん職人さんがいらっしゃって、一つのものづくりにたくさんの方が関わっていることを初めて実感できました。京都の伝統工芸は分業制で行われていることが多いんですが、特に「KUROMONTSUKI」では一番それを実感しましたね。
「HANAO SHOES Craftsman」のコンセプトともつながっていることが感じられて、いい企画になりそうだって、改めて手応えがありました。「一足にたくさんの人が関わってくださっている。」これがHANAO SHOES Craftsmanのいいところです。
──「この技術を掛け合わせたら面白いかも!」という発見は、工房にお邪魔させていただいたり、実際にお話させていただくことで見つけられると思うのですが、藤崎さんの技術、仕事内容で面白い!と思った部分はありますか?
工房に行って面白かったのは、使われている素材ですね。家紋はあとで入れるので、その部分だけは染まらないように防染をするんですが、その防染に使われている素材が「餅米」から作られたものだったんです。
今は技術がどんどん発展していって、いろんなものの作り方があるけど、昔はある物で知恵を出して方法を編み出していたんだな、と。まだここに、その知恵が残ってることに驚きました。
その防染を剥がす作業もあるんですが、剥がす時の道具も試行錯誤されていて。その時ひとついただいたんですが、それは親指にはめて使う形で、指の腹に爪のような形のすくえるものが付いているもの。それで防染をクイっとひっかけて剥がせるような形ですね。その前はスプーンでやられていたみたいで。
「これがいいんじゃないかな」っていう追求、実践、追求の繰り返し。何百年も前からある会社だけど、まだ試行錯誤を止めていない。すごくかっこいいですよね。
「HANAO SHOES」にできるんじゃないかと思う時って、「鼻緒の形が想像できないもの」であることが大切だと思っています。その物や技術自体が流通していて、今でも使われているなら、私たちがイノベーションする必要はないんです。
暮らしが変わって、現在の形では使ってもらいにくくなっているものに、「次の新しい形」を考えてみる。これがイノベーションだと思うんです。
他にも、錺金具とか、金網とか……。そういうものが靴になってるって、見たことないと意味わからないじゃないですか。(笑)でも、そういうことに挑戦していきたいんです。真田紐も、日用品だった紐が姿を変えてファッションになる。
職人さん方自身も守っていくところ、変わっていくところを見極めて今日まで続いて来られています。私たちはそれを勝手にお手伝いしたいと思っているんです!(笑)
だからそんな考え方、視点を入れていくことが大事なんじゃないかと思います。
About “Whole Love Kyoto”
──Whole Love Kyotoの強みはなんだと思いますか?
Whole Love Kyotoは、ファッションから「日本人が日本人でよかったと思えるブランド」だと思います。これは、私自身が活動に関わっていた中で実感したことです。日本人って、海外への憧れが強いじゃないですか。確かにヨーロッパなんかは実際に行って、街自体からかっこいいと感じました。デザイナーじゃない、一般の人の色彩感覚が研ぎ澄まされているんです。そういう部分はすごく憧れるし、生き方にも尊敬できる部分もたくさんあります。
だけど、私が京都に来て、職人さんたちにお会いする機会ができて、実際に技を見せていただいたり、お話を聞いたりして感じたのは、日本人がすごく「かっこよかった」んです。「日本人は季節のもの、自然のものを模様にするのがうまい」ということを聞いたりして、日本のすりガラスや寺社仏閣の錺金具の模様のことを思い出したり。
他にも、藤崎さんのずっと道具を探究し続けていらっしゃる姿勢をはじめ、伝統工芸に使われる道具なんかは、どうしてそこにたどり着いたんだろうって思うような素材が使われていたりするんです。日本人、どこまで追求するんだ!って。真剣に思います。
そういった出会いや経験から、日本のものづくり技術がすごいって言われる理由を、身をもって知ることができました。
Whole Love Kyotoもファッションブランドのひとつですが、ファッションブランドって世の中にたくさん存在しているので、「かわいい」「かっこいい」だけのブランドをつくることは、私自身あんまり魅力的に思っていないんです。でも、Whole Love Kyotoはそれだけじゃなくて、ファッションが「伝統工芸の入り口」になる可能性を秘めている。
商品を手に取っていただくと、その奥にもっと広い世界があるんです。
日本のこと、京都のことを思うきっかけになる。
日本人だからこそ、「日本かっこいい」って思って生きていきたいじゃないですか。そういう誇りを取り戻させてくれるものが日本に、京都に、あるんです。その誇りを取り戻すためのファッションを作っているのがWhole Love Kyotoだと思っています。
About Whole Love Kyoto
#06
藤崎染工
藤崎照治
文:
川口水萌(ビジュアルコミュニケーションデザインコース)
写真:
中田拳太
Whole Love Kyoto HP|HANAO SHOES®︎:
https://wholelovekyoto.jp/category/item/shoes/
この「HANAO SHOES Craftsman」シリーズは、京都の伝統工芸の職人さんによる技術とコラボレーションしてつくられた「新しい鼻緒」をスニーカーに取り付けたもの。ひとつの鼻緒ができるまで、さまざまな職人さんの技術が詰まったアイテムです。
「KUROMONTSUKI」は、落語立川流の定紋「丸に左三蓋松(ひだりさんがいまつ)」があしらわれたオリジナルの鼻緒。今回は開発に携わったスタッフと、黒紋付の職人 藤崎染工さんから、アイテムが誕生するまでのお話を伺います。