HANAO SHOES JAPAN
#13


沖縄|琉球紅型 | 藤作紅型工房

伝統的な手仕事は「日本の美」として世界に誇れる、なくしてはならないものと私たちは日々感じています。HANAO SHOES JAPANは織物・染物の伝統が多くの人の目に触れ、見る人それぞれがゆかりある地場の手仕事に興味を持つ機会となるプロジェクトです。
ここでは47都道府県全ての工房にインタビューをお願いし、ここでしか聞けないお話を聞いています。

今回は藤作紅型工房の藤作眞さんにお話を伺いました。

王家の衣装として発展した紅型

──始めに、お名前·創業年·何代目かをお聞きしてもよろしいですか。

名前は藤崎眞(ふじさき まこと)、藤作紅型工房です。
出身の神奈川から沖縄に来て、創業したのは昭和49年。
それから、仕事を首里で始めて現在に至ります。

25年前に拠点を県北の山原(やんばる)地域に移しました。
那覇で25年、山原で25年、沖縄に来て50年です。

──工房を持とうと思ったきっかけや、染物の歴史について教えていただけますか。

紅型は、王家の衣装として発展してました。やはり染めですから、王様や士族の人たちが着ていたんですね。
沖縄本島には芭蕉布や琉球絣、読谷花織(よみたんはなおり)、知花花織などいろんな織物があります。
那覇では、弟子入りして一生懸命やっていたんですけど。
僕はこの沖縄の陽の光が好きで。
染物や顔料の持つ色合いと光がぴったりあって、那覇でやるより、やんばるの自然の中でやった方が良いんじゃないかと。
海の近くで、自然の中で仕事がしたいと思い、こっちに来ました。

──藤崎さんは那覇で25年、やんばるで25年ですが、この紅型で一人前といわれるようになるまでどのくらいかかるものなのですか?

20年30年とやらないと一人前とは思わない。
今までうちに弟子入りに来た人たちを見ていると、5年くらい経つと少しずつ姿勢が変わってきて、伸びるのが早くなるんです。
でもやっぱり、途中で挫折してしまう人もいます。

──紅型工房を始めようと思ったきっかけは何かあるのですか?

同じ那覇にいるより、25年くらい一生懸命やって、次第に自分で工房を作りたいと思うようになりました。
やっぱり25年かけて基礎を積んできたことが、すごく糧になっています。
ここにきても1人で全てできるようになっていたので。
この仕事は温故知新というか、古典模様を久しぶりに見ると新鮮に見える。


沖縄の日差しにも負けない色

──続いて、この琉球紅型の染めの工程やどういった作業で作られるのか、どんな道具で作られるのかを教えていただきたいです。

そうですね。紅型には25工程ほどあります。
まず始めにスケッチをして、そこから型紙を作る。
その型をもとに「型彫り」をして、「型置き」、「豆引き(ごびき)」、そして「色差し」と続きます。
次に顔料の絵の具で、「刷り込み」の工程です。
それが終わったら、「隈取り」というぼかしですね。蒸して水洗いする。
これに、糊を塗って、地染めをする。そして同じように蒸して水洗いして仕上がります。

──すごくたくさん工程があるんですけど、1つのものができるまでにどのくらい時間がかかるのですか?

作業に入れば着物は染めるだけでは1ヶ月くらいで出来ます。でもその前の型紙を制作する作業に何年もの時間がかかっています。
図案を考える時は「あれを染めようこれを染めよう」ってずっと自分の頭の中でやっていて。
それが何かのきっかけに形になるんです。
考えると、場合によって数年では足りないこともあります。
いろんな工程を挟んで、水洗いを何回もして。そしてまた糊をつけて、また水で洗ってってことを繰り返すんです。

──琉球紅型は色がすごくきれいですよね。柄もすごく細かくて。

そうですね、やっぱり染料じゃなくて、顔料で染めているからなんですよ。
それは紅型の特徴だと思う。
これだけの色合いがあるから、沖縄の強い日差しにも負けないんです。

──へえ、確かに。

染料を刷り込む時に使う筆は髪の毛でできているんです。子供の頃に髪を切って、自分で作ります。

──えーー!!髪の毛で!

みんな手作りなんです。
型紙を彫る小刀(シーグ)も全部自分で作ります。


型紙が紅型の基礎。

──先程お教えいただいた工程の中で、特に大事な部分などはありますか?

型紙を作るのが、いちばんの醍醐味です。
型紙には一つの制約があるから。

肩から、身頃から袖から、全部柄が合うようにするわけです。
そういう風にイメージしながら小紋にしても訪問着にしても作っています。
それを自分でやるから、結構大変なんです。
最初に作る型紙も、訪問着だったら8枚くらい全部作らないといけません。

──へえ、パーツごとにということですね。

そうですね。身頃から袖と下前、上前の所と、柄が流れて行って。
それに襟もつけないとね。胸に柄を配置して。
こういう風な型紙を作る時に一番、醍醐味があるというか、集中することが多いですね。

──なるほど。たしかにすごく細かい……

もちろん染めることも楽しいんですけども、やっぱり図案がしっかり作れてないと。

──この琉球紅型の柄は、他の地域の染織物と比べるとすごく今っぽいというか、鮮やかな柄だなという感じがします。

そうなんですよ。
だからやっぱり、古いものは刺激をもらういいチャンスですよね。
自分が自然豊かな環境で作っていると、パッと出来上がることもあるんですよ。
だから面白い仕事ですね。


やんばるの人は贅沢しない。シンプルな生活。
海や畑からいろんなものを持ってくる。

──続いて、工房や染物の地域との繋がりは何かあったりしますか?

私は1969年から沖縄にいるので足掛け55年くらいになるんですね。
なぜ沖縄に来たかというと、こういう離島、石垣島とか西表島(いりおもてじま)とかのシンプルな生活がとても好きで。
学生の時は高度成長期で景気がよかったけど、自分はそれより離島の過疎化したようなシンプルな生活がすごく好きなんです。

ここの人は海のものや畑のもので自給自足に近い生活をしていました。
本当にシンプルな生活をしているんです。
それが肌に合うんですよね。

今は地域で役員もしています。
ここはいろんな伝統行事があるんですよ。ハーレー船を漕いだり、
豊年祭を行ったりしています。

あと拝所(うがんじゅ)、みんなで椅子を持っていってうとうとするんです。五穀豊穣のお祈りをしたり。
そういうことが好きなので楽しんでいますよ。

──へえ、楽しそうですね。

文化の匂いがすることはすごく好きです。だから地域のお祭りは率先してやっています。
ところが今の人はこういうのが苦手な人が多くて。ここに新しく住んでも地域の人と距離を置く人も多いです。
でもそんな中途半端にするより、僕はこういう仕事だし。
やはり部落で持っている文化の核みたいなのをね。見えるか見えないかじゃなくて、触ることが大事だね。
やんばるは県北だから昔はいろんな人が流れてきて、文化が混ざり合った。

仕事する上でも、そういうのを見といたほうが、知らないよりいい。
紅型にすぐに結びつくか、結びつかないかじゃなくて、やっぱり沖縄のこの土地が持ってるもの。

──地域のお祭りに関わったり、見ていることが、さっきいっていたクリエイティブな部分にどんどん繋がっていて、そこから新しい柄を創造されたりする感じなんですね。

うんうん、それはあると思います。非常に。


沖縄は普段の生活で染織を感じることが多い。

次に藤崎さんから見たこの染物の魅力を教えていただけますか?

生活に密着していることかな。
沖縄は生活の中で藍染やらなんやら、地機(じばた)を織ったり、普段の生活で染織を感じることが多いんです。
こんなに小さい島で、染織が身近にたくさんあるってすごい文化だな、って思う。
何もないところよりはやっぱり刺激を受ける。

京都もいろんな伝統文化があって、みんなそれに触発されてるよね。

そうですね。

自分もそういうところはあると思う。
身近にあるから、自分が紅型に結び付けて見ることが多いですね。
みんな地機で織ってるのなんか見ると、あれも模様になるじゃないですか、糸車があったり、工具類全部見ていても。
やっぱり、地域で生活している方があっ!とアイデアを呼び起こしてくれる感じがする。

他の産地の染織物と比べて、この琉球紅型の特徴となる部分はどこですか?

さっきもいいましたが、染料じゃなくて顔料なんです。
だからやっぱり、この強い日の光にも負けない。
300年前くらいは、加賀友禅や京友禅もみんな顔料で染められていたんですよ。
ただ、本土の場合は量産することを考えて染料で染めています。
今は顔料をペースト状にしたものがあるので使いやすくなっています。

やっぱり顔料を、呉汁(ごじる)で溶いて使ってる。
一色一色配色して、3日くらいで全部下塗りをする。そしてまたずっと刷り込んでいくわけ。髪の毛で作ったあの筆で(笑)。
だから量産しにくいんです。


マングローブを使ってみたくて、やんばるへ。

この染物で作られた製品はどんなものが多いんですか?やはり着物、とか、

うちで今作っているのはやっぱり着物ですね、絹のもの。帯、振袖とか。
あと、麻を使った暖簾(のれん)、タペストリーとか。

暖簾、ホームページでもすごく素敵でした。

あ、あとショールもそうです。
植物染料がのるものですね。
植物繊維だと、動物繊維の絹でもそうだけど。やっぱり合うんです、この色合いと。

型紙を2枚使って朧型技法(うぶるがたぎほう)で染めることもあります。
柄もマンゴー、ヤシ、シーサー、ゴーヤ、いろいろな花などがあります。

後ろの柄の部分と、前の部分で2回染めているんですか?

そうです。

あと日傘もあります。

ここに住んでいると植物染料がたくさん手に入るんですよ。
マングローブという植物は、川と海がちょうどぶつかるところ汽水域に生息するものなんです。
そういうものは沖縄県の北の方じゃないと手に入らないんですよ。
昔はよく使われていたのですが、今マングローブを使っている人はいなくて。
自分はぜひやってみたいなと思って、拠点をこっちに。


新しい紅型を見てください!

なぜこのHANAO SHOES JAPANの企画に賛同していただけたのか、お聞きしてもいいですか?

学生がグループでやるんだろうな、くらいに思っていて、面白いと思ったのがきっかけだね。あとは何もない(笑)。

ありがとうございます。
どんどん成長して、頑張ります(笑)。


今工房には何人くらいいらっしゃるんですか?

私ともう1人だけです。2人で。
今いる人は、4年になりますかね。だから大体のことがわかってきて、
とても仕事がやりやすくなって助かっています。

その方が後継ぎみたいな形で、工房を継がれるのですか?

いや、長生きして自分でやれって(笑)。

──では最後に、このHANAO SHOES JAPANの企画を通して、これからこの琉球紅型に出会う人に向けたメッセージなどいただけたりしませんか?

染めとか織とか、特に染めはもっと広がりがありそうな気がする素材だと思うんです。
だからもっと新しいものが生まれてくるんじゃないかと期待しています。
それと、伝統工芸っていうのは続いていく。
これからずっと継続していくには、新しい紅型をみてください!それに尽きますよね。
本当に可能性を秘めてる、染物だと思うんですよね。
南の小さな島にある、それも顔料でコツコツ染めている。
何か新しいことをやる、それが何かってことは皆さん考えてください。
ただそういう可能性を秘めた染物ですよってことをいいたいです。


HANAO SHOES JAPAN
#13

藤崎紅型工房
藤崎 眞さん

文:
HANAO SHOES JAPAN実行委員会

撮影:
藤崎紅型工房

HANAO SHOES HP:
https://wholelovekyoto.jp/category/item/shoes/

藤崎紅型工房

場所:〒905-2263 沖縄県名護市安部418 
TEL:0980-55-8978 
HP:https://www.bingata-fujisaki.com

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伝統的な手仕事は「日本の美」として世界に誇れる、なくしてはならないものと私たちは日々感じています。HANAO SHOES JAPANは織物・染物の伝統が多くの人の目に触れ、見る人それぞれがゆかりある地場の手仕事に興味を持つ機会となるプロジェクトです。
ここでは47都道府県全ての工房にインタビューをお願いし、ここでしか聞けないお話を聞いています。

今回は藤作紅型工房の藤作眞さんにお話を伺いました。