HANAO SHOES JAPAN
#14


福井|濡れ緯羽二重 | 株式会社東野東吉織物

伝統的な手仕事は「日本の美」として世界に誇れる、なくしてはならないものと私たちは日々感じています。HANAO SHOES JAPANは織物・染物の伝統が多くの人の目に触れ、見る人それぞれがゆかりある地場の手仕事に興味を持つ機会となるプロジェクトです。
ここでは47都道府県全ての工房にインタビューをお願いし、ここでしか聞けないお話を聞いています。

今回は株式会社東野東吉織物の東野晃典さんにお話を伺いました。

羽二重を織り続けて100年以上
滑らかな生地になるのは濡れた糸で織るから

──改めてお名前、工房名、創業年と何代目かをお聞きしたいです。

名前は東野晃典と申します。会社名は株式会社東野東吉織物です。
私は五代目で創業は1907年(明治40年)になるのかな。

──では工房と濡れ横羽二重の歴史についてお聞きしたいです。

福井県全体で羽二重産業が始まったのが大体、明治20年くらい。
外国から機械式の織機(バッタン機)が入ってきて、京都や群馬の桐生に織子さんが習いに行ったり、向こうから先生に来てもらったりして教えてもらって、福井の羽二重っていう織物を作るように。
それがだいたい明治20年頃で、20年代半ばから羽二重の会社が増え、私どももその流れに乗って、明治40年に当社が創業しました。

福井では機械で本格的に量産する織物の一番最初が、羽二重だったという感じです。
その後、レーヨン(再生繊維であり化学繊維の一種)になったりナイロンになったり、今ではポリエステルとか、色々織るものが移り変わっていったんですけれど、うちは昔の羽二重のまま織り続けているという。
福井では今でも羽二重を織り続けている会社もあれば、ポリエステルやナイロンだったり会社によって織っているものが違う。多種多様なものを織っているのが福井の特徴です。

──濡れ緯羽二重(ぬれよこはぶたえ)の織物をしているのは東野さんだけなんですか。

勝山市ではうちだけですけれど、福井県だとまだあります。4〜5社あるかな。
あと厚さが違うものですが、新潟の五泉とか福島の川俣でも何社かは織っています。石川の加賀の方でも昔は織っていたのですが、今はないのかなという感じですね。

「濡れ緯」っていう水に濡らして織る織り方は海側の方が多いです。
元々織り方を教えてもらった群馬は内陸で、乾風で乾くので「濡れ緯」はやってなかったと思うので、福井や北陸で水に濡らして織る方法が発展したと言われていますね。


桐生織(群馬県)が福井の先生

──群馬の桐生から伝わってきたということでしたが、群馬だと桐生織をHANAO SHOESに使わせて頂いているんですが、桐生織が濡れ緯羽二重のベースになっている感じなんですか。

そうですね。桐生織が福井の先生というか。
群馬は富岡製糸場もあって絹織物の一大産地だったので、そこから羽二重の先生に来てもらって織り方を教えてもらったのが福井です。
糸って乾燥すると静電気が起きたりして良くないんですけれど、福井の冬は雪が降りますし、夏はいつ雨降るか分からんってくらいに、それこそ『弁当忘れても傘忘れるな』っていうくらいに天気が変わりやすくて湿気が多いんです。
湿気が多い方が織物は織りやすいんですよ。
人間の肌とか髪と一緒で乾燥すると糸が脆くなって切れやすくなったり傷んだりする。
だから福井、加賀、新潟の方が良い織物が織れるというのがあって、福井、石川あたりが羽二重の濡れ緯の一大産地になったんです。
福井が全国で一番織物を、特に羽二重を織っていたんです。

桐生織は、今は分かんないですけど昔は濡れ緯じゃなかったと思います。
福井とか石川は濡れた糸で織ります。
濡れた糸で織った方が水を含む分だけ織る時に糸が太くなる感じがするので、織機で打ち込む時にしっかりと織り込まれるんです。要するに密度が濃くなるんですよ。
目が詰まるのでその分織物が丈夫になりますし、濡らすことによって糸が真っ直ぐ入るので、触り心地がすごい滑らか。そういうところが特徴です。
乾いた糸で織った場合と濡れた糸で織った場合では、一般的には濡れ緯の方がつるっとしていて質が良いと言われます。
海外に輸出されていて、ヨーロッパやアメリカでもストッキングなど衣服を作るのに使っていました。
私も乾いた糸と濡れ緯の両方で試したことがあるんですけど、濡れ緯で織った方が触り心地がつるつるして滑らかですし、丈夫さも2〜3割摩擦に強くなりました。
うちらの場合、着物の裏地や居敷当て(いしきあて)っていう着物のお尻の部分に使うんですけど、そういう着物の中側部分は擦れやすいので濡れ緯を使った方が破れにくいし滑りがいい。そういうことで濡れ緯が着物の裏地には使いやすいって言われていますね。

──東野さんの思う、この織物の魅力はなんですか。

やっぱり触り心地が一番かなと思うんです。つるっとした滑らかな触感っていうのが羽二重の一番の特徴。
生糸を使って撚りをかけないで真っ直ぐな糸で織るので、正直織るの大変なんですよ。撚りをかけないと糸が切れやすい。
見た目の光沢もありますが、やっぱり触り心地ですかね。
うちは裏地以外にもストールなども作っているんですけど、やっぱりお客さんからも風合いとか着心地が良いと言われます。あとは服のファスナーとかボタンに引っかかりにくいと言われるんですよ。羽二重の方がつるっとしているんで、扱いやすいとか。


草木染めを始めたきっかけは偶然の重なり

──色々工程のお話聞かせて頂いているんですけど、改めて生地ができるまでの流れをお聞きしたいです。

うちの場合は生糸を京都の糸問屋の丸八生糸さんから仕入れています。
まず仕入れた糸を経糸と緯糸に分けます。
経糸の糸は最初に糊付けという作業をします。
生糸って一本の糸に見えるんですけど、蚕さんの吐いた糸って実はもっと細くて。
ものにもよるんですけど10本くらい合わさって一本の糸になるんです。蚕さんの細い糸を合わせているんで、普通に織ってるとやっぱり糸がほつれたりして毛羽立ちや静電気が起きたりするんです。
それを防ぐために糸を丈夫にする必要があって、布海苔(ふのり)っていう海藻を溶かした糊に糸をつけて生糸をコーティングします。
さらに糊付けをした糸を糸くりで枠(ボビン)に巻いていく作業をしていきます。

この作業の後は、整経という経糸を並べていく作業。
うちの場合、織物の幅の中に大体9000本くらい糸があるので一回400本くらい枠立てして、それを20何回か繰り返して経糸を揃える作業をします。
整経をした後に綜絖(そうこう。織機の一部品。緯糸を通すために経糸を上下に開く器具)に1本1本糸を通します。
今度は筬(おさ。経糸の密度を整え、緯糸をまっすぐに打ち込むための道具)に1本1本糸を通していくっていう作業をしていきます。9000本の糸を手作業で通していかなければいけないので大変ですね。

緯糸は後で水につけるので糊はつけないです。緯糸は糸繰りをして枠(ボビン)に巻いて、管巻きという管に巻く作業だけです。管に巻くときに水に濡らしながら巻いてくっていう作業をしないと、管の中の方にまで糸が入らないんですね。
昔は枠自体を水の中につけて管巻きしたんですけど、今は糸の使う量も少ないので、ずっと濡らして置いておくと糸自体が腐っちゃうので、途中で水の中に通しながら管を巻きます。緯糸はそれだけです。

──ありがとうございます。
ちょっと気になっていたんですが、織ったものを草木染めで染めていらっしゃるんですか。

はい。そうですね。うちの場合、基本的には着物の胴裏用なんで、通常使うものは基本的には染めないんですよ。
どうして染め出したかっていうと、たまたまうちの近くに昔、地場産業センターっていう地域の産業を振興する会館があったんですよ。
そこに草木染めの先生が来ていて、うちの両親が「シルクは草木染めでよく染まるよ」っていう話を聞いたらしくて。
それで先生に草木染めを習って、うちの生地を染めてみたらよく染まるってことで。

最初、両親はほとんど趣味みたいな感じで始めて、自分で使う服を染めていたんですよ。
その後に「ゆめおーれ勝山」っていう昔の機屋さんを博物館に改装して機織体験ができる施設ができたんです。
そのお土産屋さんに「勝山の商品を売りたい」って声をかけてもらいまして。
そこでストールなどを染めて売るようになったのが草木染めをやり始めた理由ですね。
だから別に染色はうちの本業じゃないんです。


羽二重っていうと、福井の人でさえみんな『羽二重餅』しか知らない

──他の都道府県の染物や織物と比較して特徴となる部分というか、こういうところが濡れ緯羽二重の強みだっていうところはなんですか。

元々羽二重は海外への輸出用に使われていて。明治時代に富国強兵とか、日本が外貨を稼ぐための手段の一つとして使われるくらいに良い織物でした。
そういうのもちょっと日本の産業や経済成長の発展の一端にはなってたんかなって。
羽二重の強みっていうか、特徴ですね。まあうちのものが輸出されていたかは正直分からないです、昔はほとんど問屋さんに送っていたんで。
織物の特徴としてはつるっとした滑らかな触感や光沢の良さ、薄いけど丈夫といったところです。戦時中はパラシュートに使われたくらい目が細かく丈夫なんです。

──次の質問なんですけれども、なぜ私たちのこのHANAO SHOES JAPANの企画に賛同していただけたのか、理由をお聞きしてもいいですか。

うちらは商売なんで、来た話はなんでも受け入れています。できないことはできませんって言うけど、できることはいろいろありますし。
羽二重や織物自体がそうなんですけど、素材なのであまり表に出ない。
羽二重っていうと、福井の人でさえみんな羽二重餅しか知らないんですよ。
織物の羽二重は皆さん知らないんですよ。(織物の羽二重を模して羽二重餅が作られた)

だから福井の他の機屋さんとも「ちょっと織物のこと知ってもらいたいね」ってことで。
だから羽二重のことを知ってもらうためにいろんなところに声かけたり、声かけてもらったところは出たりしています。
HANAO SHOES JAPANさんも都道府県の染物·織物として、これは福井のものだよって出してもらえるっていうことなので、うちらとしてはすごいありがたい機会ちゃうかなって思っていて、協力させてもらいました。
協力させてもらったっていうか、こっちが協力してもらったって感じになっているんですけど、すごいありがたいなって感じですね。

織物のことを皆さんに知ってもらいたい。今、近所の人でも「この工場何しているの?」って言われるくらいで。
機屋さん含めて物作りをしているところって、なかなか外から見えないところが多いんでね。こういういろんな企画で一緒にやっていけると、産業の発展にも少しは貢献できるかな。

──この企画を通して、濡れ緯羽二重に出会う人に向けてメッセージをいただいてもいいですか。

素材に興味を持ってもらうこと、その素材がどこで作られたとか、どういう風に作った、誰が作ったっていうことを少しでも興味を持ってもらえたら、うちらの作り手としては一番嬉しいかなって。
HANAO SHOES JAPANさんにしても、いろんな種類があるんで、これは福井の生地なんやって、お客さんが少しでも興味を持ってもらえるとありがたいです。
もちろん見た目の色とかね、そういうのに惹かれると思うんですけれど。素材に触れて、質感や他との違いも知ってもらえると、また面白い発見があるんかなって思います。


HANAO SHOES JAPAN
#14

株式会社東野東吉織物
東野晃典さん

文:
HANAO SHOES JAPAN実行委員会

撮影:
株式会社東野東吉織物

HANAO SHOES HP:
https://wholelovekyoto.jp/category/item/shoes/

株式会社東野東吉織物

場所:〒911-0804福井県勝山市元町2丁目9-21 
TEL:0779-88-0317
HP:https://higashino-tokichi.com/

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福井|濡れ緯羽二重 | 株式会社東野東吉織物

伝統的な手仕事は「日本の美」として世界に誇れる、なくしてはならないものと私たちは日々感じています。HANAO SHOES JAPANは織物・染物の伝統が多くの人の目に触れ、見る人それぞれがゆかりある地場の手仕事に興味を持つ機会となるプロジェクトです。
ここでは47都道府県全ての工房にインタビューをお願いし、ここでしか聞けないお話を聞いています。

今回は株式会社東野東吉織物の東野晃典さんにお話を伺いました。