こぎん刺しは、本当に好きじゃないと続かない
──こぎん刺しの歴史や、弘前こぎん研究所さんの工房の歴史をお伺いしたいんですけれども。この弘前こぎん研究所は、1942年に引き継がれたのですか。
そうですね。
ここは1932年に財団法人木村産業研究所っていう地域産業の発展のために建てられた建物です。そこから10年後の1942年にホームスパン*の会社になったのですが、
1962年に「(有)弘前こぎん研究所」へ社名を変更し、集めてきた基礎研究を元に商品を製造販売する会社になりました。
この建物は、近代建築の巨匠である前川國男が作った作品で、2021年に国の重要文化財に指定されました。
ホームスパン*…太い手紡ぎの糸で織った毛織物
──なるほど。千葉さんはその会社の社員さんで、職人さんではないのですか。
そうですね。私は役職がついている立場ですが、他のみなさんは社員として働いていて、職人というよりは地元のお母さんたちがお家で内職として刺してくれてます。
──え!じゃあ子育てもしながら、刺して。
そうです。お家での仕事なので、空いた時間に刺して、
出来上がったらうちの会社に持ってきて、新しいお仕事と交換してっていう流れでお仕事してもらってます。
──特殊ですね。すごい。
商品が並んだ棚を見せていただきました。
このように、会社にも色々商品を置いていて、これだけ作るにはやっぱり人数が必要で。今は内職さん90〜100人にやってもらっています。
──そんなに!そういった方たちって、こぎん刺しをしたくて始められたんですか。
たぶん、皆さん好きで。
募集をかけて講習をしているのですが、こぎん刺しって時間もかかるし、手間もかかる。本当に好きじゃないときっと続かないので、今やってくださってる内職の方たちはみんな、こぎん刺しが好きだと思います。
──ありがとうございます。次に、このこぎん刺しがどのように作られているのかお聞きしたいです。
ここが工場。こんな感じです。
今ここにいるのが社員さんとパートさんです。
で、今は内職さんのために生地を商品ごとに整理していて。
ここに入っているものが全部生地なんですけど、このように商品に合わせて生地を切っていきます。
それに「グラフ」という模様をつけて、糸をつけて、内職さんにお渡ししてます。
紺地に白っていうのがこぎん本来の色
(刺しているところを見させていただきました)
紺地に白っていうのがこぎん本来の色で、今うちの会社では、9色の生地とおよそ20色の糸があります。
刺し方は、こぎん刺しは目数(めかず)を数えるので、一段一気にいきます。
──へえ。
運針(うんしん)というかたちで一気に刺していきます。
こぎん刺し、裏も綺麗なのが特徴で、今見えてるの裏なんですよ。
──え!そうなんですか。
で、こっちが表です。
──へえ。表と裏で全然違う柄になるんですね。
一番簡単な機(はた)です。ただ生地は普通のものと違って、こぎん刺しを刺せないといけないので目が荒いです。
──なるほど。
そこの目を揃えるのも大変で。1センチに10本くらい入っているので、1ミリ四方になったり、伸びがあるからちょっと違うかもしれないけど、大体そのぐらい。それを刺していきます。
──へえ。すごい。
この織り機にかかってるのを全部織ると、大体11メートルくらい。
帯2本分です。で、縦糸の数が355本あります。
──おお〜。すごい。
ちょっと珍しいのですが、この機織り機は細い幅しか織っていません。
他の商品を手織りにすると、時間もコストもかかるのでなかなかできないんです。けど、帯の一部はこれで作っています。織り終わったら紺色に染めて、刺してもらって商品になります。
──工房見学は普段もやっているのですか。
見学だけであれば、自由に来てもらえます。
体験となると、私たちが教えるので予約制です。
遊びに来るのは自由なので、ぜひ来てください。
──はい!ありがとうございます。
寒いから、こぎん刺し。
江戸時代の青森、東北の地域って、綿が育ちにくかったんです。寒さとかで。
綿は高級品だったので、農民たちは自家栽培した麻の生地を着るしかなかったのですが、麻は目が荒く薄くて寒い。
そして、補強のために布目を埋めたことがこぎん刺しの始まりですね。津軽の女性たちは一段ずつ刺して、一個ずつずらすと模様になるということに気づいて、こういう柄になったんです。
──縦の織り目に対して、奇数目で数えて刺す技法があると見ました。
こぎん刺しって奇数で刺すといわれていますが、八戸っていう南部の方には、「南部菱刺し(なんぶひしざし)」というものがあって。刺し方は一緒なんですけど、偶数か奇数の違いで。じゃん。
──うわあ。すごいカラフル。
南部の方は同じ柄の色を変える特性があります。これの一つの菱が横菱(よこびし)になっているの分かりますかね。横に伸びてるんですけど。
──はい。
偶数で刺すとこうなりますが、奇数で刺すと、縦に長い菱に。この違いなんですけど、昔の記録を見るとこぎん刺し自体も偶数だったっていう。
記録的には偶数が先だったんですけど、偶数だと模様を合わせにくいんです。奇数にすれば、いろんな柄が作れる。
そこから津軽の方は奇数刺しになって、模様が無限に増えています。
──面白いですね。こぎん刺しは「東こぎん」だったり、「西こぎん」、あと「モドコ」という模様の種類があって、その「モドコ」は名前の由来とかってあるんですか。
(モドコを見せていただきました)
モドコって模様の基(もと)です。津軽弁って最後に「こ」ってつけたりするんですね。
なので、基っこ(もどっこ)です。
この中は名前が付いているものもありますが、これを組み合わせて、大きい模様に。
今40種類くらいのモドコがあって、組み合わせがどんどん増えてます。これが西こぎんです。これは西側で資料として集められたというものなんですけど、この特徴として肩の部分が線になっています。ここの地域は背負ってお仕事をすることが多くて、肩の部分が擦れてきちゃうので、直しやすいように。
──なるほど。
直しやすいように、単純な柄になっています。
──先のことも考えてデザインされている。
そうですね。
私がいる弘前(ひろさき)の東こぎんなんですけど、これは全部同じ柄です。
こっちは畑(仕事)とかが多いので、肩に模様を入れる必要もなく、大きい柄になっています。
最後に、三縞こぎんです。この特徴は三本の線があるのが特徴。これが生産されていた地域は生活に余裕がなく、生産数も少ない。作ったら雑巾になるまで使っていたといわれていて、今現在きれいな形で残ってるものは少なく、とても貴重なものです。
──ありがとうございます。
300年変わらない幾何学模様
──千葉さんが思うこぎん刺しの魅力ってなんでしょうか。
やっぱりこの幾何学模様だと思うのですが、昔から今も変わらず残っている。その歴史が魅力なのかなと思いますね。こぎん刺しの歴史としては300年といわれていて、そんな昔からあるものが今も伝わっていることが、歴史含めてすべて素敵ですね。
──他の産地の染物や織物と比べて、こぎん刺しの特徴ってあったりしますか。ここは負けないぞというところとか。
専門の職人ではなく、農家のお母さんが子供に教えてた。
こぎん刺しは専門の人が作ったものではなく、農家のお母さんが子どもに教えてというものが今、伝統工芸になっているところが、すごいことだと思っています。こぎん刺しは男性も女性もできる。残ってきた力強さはあると思います。
──こぎん刺しのお話を聞いたら、すごく暖かいな、そういうものが残るって良いなと思いました。
元々は、5、6歳とか、小さいときから刺し始めていたそうです。
何日も刺し続けて、それを持ってお嫁に行くんです。お嫁に行くときって、昔の人は顔も名前も知らないところに嫁ぐことがあったと思うんですけど、嫁いだ後に旦那様になる人がちょっとふくよかだったり、細かったりする。なのでそこから生地を合わせて着物にするために、何にでもなる状態の生地を持っていったといわれています。
──こぎん刺しではどういった製品を作ることが多いんですか。
帯も作りますし、半纏(はんてん)とかベストの着る物も作ります。けど、今はそういうものの需要は少なく、補強のためのこぎんはもう作らないので、カラフルなものが多くなってきています。バッグは、いっぱいあるんですけど。
──わあ。かわいい。
今は100種類以上の商品があります。
──え!すごい!
あとは、これ見えますかね、ポチ袋なんですけど。
──へえ。紙じゃなくて、本当に布の袋で。
大きいバッグなどを作る際に端切れが出るんですね。それを利用して作った、ポチ袋です。この糸も刺し終わって、ちょっと余った糸とかで刺してて、そんな感じでこれも作りました。
──へえ。素敵。
これが推しっていうのは無いんですけど、それこそこれです、りんごです!
──かわいいです!
推しです(笑)
──なぜこのHANAO SHOES JAPANの企画に賛同していただけたのかっていう理由をお聞かせ願えますか。
まず一番にはこぎん刺しをいろんなところで、多くの方の目に触れてもらいたいので、いろんな企画に参加したいっていうのがありました。
それと47都道府県全部集めて、しかも同じ商品なのに鼻緒の部分だけ違うというのは、すごいことだと思って。
その中にこぎん刺しが入れることもすごいことだなと。ありがとうございます。
──私たちこのHANAO SHOES JAPANの企画で、工房さんや職人さんがワクワクすることって何だろう、と話をしていて。例えば、展示会に来てくださったお客様が、こぎん刺しのHANAO SHOESを買ってくださって、それを履いて工房さんのところに訪れてもらったらワクワクするかな、みたいな話をしたりだとか。
あります、あります。
地元じゃないところで買ったものを私たちのところに持ってきてくれれば、繋がりができたんだなあって嬉しいですし、ワクワクもします。やっぱり私たちもこぎん刺しに少なからず魅力を感じているので、それを分かって、教えてくれると嬉しいです。
──では最後に、このHANAO SHOES JAPANの企画を通して、このこぎん刺しと出会う人に向けたメッセージをいただいてもよろしいですか。
私たちも含め、皆様もこぎん刺しが好きだと言ってくださるし、伝統工芸が好きっていう気持ちはすごく伝わってくるのですが、その魅力を発信できることと伝え続けることはやっぱり大事だと思うので。
私もHANAO SHOES JAPANさんたちのお力になれたらなと思いますし、うちの会社ではこぎん刺しを昔から正しく受け継いできて、それを次の世代に伝えることがいつまでも課題になっています。 そのきっかけの一つとしてHANAO SHOES JAPANがあれば私も嬉しいし、皆様とも繋がっていられるので嬉しいなあと思います。
HANAO SHOES JAPAN
#16
(有)弘前こぎん研究所
千葉弘美さん
文:
HANAO SHOES JAPAN実行委員会
撮影:
(有)弘前こぎん研究所
HANAO SHOES HP:
https://wholelovekyoto.jp/category/item/shoes/
(有)弘前こぎん研究所
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場所:〒036-8216 青森県弘前市在府町61
TEL:0172-32-0595
HP:https://tsugaru-kogin.jp/
ここでは47都道府県全ての工房にインタビューをお願いし、ここでしか聞けないお話を聞いています。
今回は(有)弘前こぎん研究所の千葉弘美(ひろみ)さんにお話をお伺いしました。