つくるひと、つかうひと
#01


水引|平井喜久雄さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、京都で「水引」をつくり続ける、平井水引工芸の平井喜久雄さんです。

平井水引工芸 平井喜久雄さん
創業100年平井水引工芸の3代目。34歳から先代であるお父さまの後を継ぎ24年目。
全て手作業で作られる水引はお父さまから習った「淡路結び」以外全て独学で習得し、お客さんからの依頼を受け、新しいかたちの水引をつくり続ける。
京都にたった二人の水引職人として今も伝統を守り続ける。


目次:
「水を引く」という工程
水引のはじまり
絶対に解けることのない「淡路結び」
手で結ぶということ
大切な時も。日常でも。


「水を引く」という工程

──そもそも「水引」の「みずひき」という名前の由来はなんでしょう?

どれがほんまで、どれが嘘かはわからへんけど、いろんな話があって、ひとつに水引を製造する過程で、まず長い水引をつくって天日干しにする工程があるんやけど、その上に海藻や海苔を糊にしたものをひく動作があって、これが水を引いているように見えるから「水引」という名前が付いたといわれてる。いわゆる「手こぎ」というやつ。何十メートルもある紙縒(こより)にした和紙を何本も並べて、糊で挟んで染み込ませていく動作が、水を引いているようだということやろね。
ほかにも水引自体が儀式とかに使われる神聖なものやから、神聖な水を引くためのものということで、水引となったと言う人もいるな。

──水って神聖なものなんですね

そやな、神社行っても必ず手を洗って、口ゆすいで〜って作法があるけれど、体の悪いものを外に出して、それから神社に入ってくださいってことで、水で清めるでしょう? それなんかもそうゆうこと。水っていうのは人間にとって必要なものやしね、水がなかったら生きてられない。神様にとっても必ず水はお供えものにするし、水引ってそれほど縁起が良いものを使ってつくられた工芸品なんよ。


「水引」のはじまり

──「水引」の起源はどこからなのでしょうか?

水引は遣隋使なんかの時代に、当時の中国から赤い紐でくくられて物が贈られてきたので、日本もお返しするときに何かの紐でくくらなあかんということでできたのが紙縒(こより)の紐。
それに小笠原流が元となったのか、「右は赤に左は白にしなさい」という決まりができて、紅白の水引が生まれたんや。小笠原流と伊勢流があって、この決まりは小笠原流だと思う。京都は一応すべて小笠原流やから。

──中国から送られてきた紐ってどんな紐だったのですか?

麻やね、麻紐。コンビニとかで売ってるようなものじゃないで。麻紐って丈夫で切れへんのよ。今、麻紐はどういったものに使われるかというと、お宮参りとか、棟上げ、上棟式とか。神社で巫女さんが髪をくくるのに使われたりしてる。この麻が水引で代用されていることがあるねん。

──水引と麻では、麻の方が格上ということですか?

そうそう。物として麻の方が格上。麻は何十年と持つし。だから神社には必ず麻が必要。中国から贈られてきたものはその麻を赤の色で染めた紐やったけど、日本には麻がなかったからその代わりとして考えられたのが和紙を紙縒にしたもの。紙縒にした紐っていうのはもっと昔から、日本にはあったんやと思うけど。


絶対に解けることのない「淡路結び」

──「淡路結び」にはどんな意味があるんですか?

結び方自体に意味はないけど、絶対に解けん結びなんよ、「淡路結び」というのは。
違う結び方で、封筒とかに使われる「本結び」という結び方あるんやけれど、これも解けへん結びとされていて、普通に持ってる分には同じように絶対解けへん。でも実は、片方を右にポンッと持って行ったら、スポっと抜けるの。実際には解ける結び方やねん。水引痛めへんし、いざという時は解ける特徴がある。

それに比べて「淡路結び」は何かゆうたら、大事なものを包んでいくために使うものやから、解けたら困る。せやから絶対に解けへんようにしとかなあかん。しかも装飾にもなると言うのが「淡路結び」の特徴やねんな。


手で結ぶということ

──一つ一つ手作業で作られていると思うのですが、手作業で行うことのメリットはなんですか?

やっぱり自分の好きな形にできること。サイズも自由にいろんな形にできる。だから、大きいものから小さいものまで、自分の好きな色で、自分の好きな形に作れるというのが最大の魅力やな。

──自由自在になんでも作れるんですか?れていると思うのですが、手作業で行うことのメリットはなんですか?

うん。絵とか書いてきてくれたら大体できる。この結び方とあの結び方を組み合わせてやろう、みたいなんはすぐに思い浮かぶね。一つの結んだものから他の形に展開することも可能やから。注文受けて、試作とかつくって。
悩むような結びは一個もないね。長年やってきてるから勝手に手が動いてる。もうプラモデルみたいなもん。プラモデルは図面あるけど。もうなくてもできるみたいなそんな感覚やね。けど職人さんってみんなそんなんとちゃう?

──そんな手作業で作られた「水引」の一番のポイントはどこですか?

円やな。ワイヤーでもなく、普通の糸でもない。糸やったら針はないし、ワイヤーには針はあるけど一回曲がったら曲がったまま。けど水引というのは円がきれいにつくれる。そしてそれをいかにきれいな丸にするかというのが、ポイントやね。一番水引の綺麗なところは円なんよ。丸いところが一番綺麗。で、真っ直ぐピンと伸ばしてもノリが付いとるからかなりしっかりしとるし、そういうところで一本の線でも固定がちゃんとできる。


大切な時でも。日常でも。

──一つ一つ手で作られた「水引」をどんな場面で使って欲しいですか?

大切な場面でもそりゃ使って欲しいけど、やっぱり普段使いして欲しいな。お母さん方とか料理する時に髪縛ったりするやん、そん時に髪留めの水引とか使って欲しい。
子どもさんとかにも使ってもらいたい。大きなものは使う場所限られてくるけど、小さいものは普段使いして欲しいね。

──普段使いしていても解けたりしないんですか?

大丈夫や。今箸置き作ってんねんけど、箸置きって洗わなあかんやん。だからどんなもんかなと思って、洗剤入れた水の中に24時間入れといたんやけど、柔らかくなったくらいで潰れへんかった。で、また拭き取ったら硬くなってくる。お手入れも楽やし、汗とかにも大丈夫や。汚れてもティッシュとか挟み込んだら大丈夫。意外と丈夫やろ?

──「水引」を使う上で知ってもらいたいことはありますか?

うーん、そやなあ、いろんな飾りをつくるにおいて、たくさんのパターンで、例えば祝儀袋にしろ、普通の工芸品にしろ、古来からある紐ということで水引から日本の伝統文化を知ってほしいね。結婚の時の結納にしろ、そういった伝統を、昔の人から伝わってきたものを残していくというのが一番大切なことちゃうかな。
色んな工芸品とか伝統産業を使っていくことで日本のためにもなるし、これからの京都のためにもなると思う。


水引は、祝儀袋など様々な場面で使われる工芸品。
古くから伝わる日本の水引を使った伝統文化を大切にされています。

【平井水引工芸】水引の髪飾り

水引はを和紙を紙縒(こより)にして作られています。
糸にもワイヤーにも出せない、紙の持つ張りを活かした曲線の美しさが水引の魅力です。創業100年の平井水引工芸さんは、京都でも2人しかいない水引職人のお1人として制作されています。


つくるひと、つかうひと
#01
平井水引工芸 平井喜久雄

文:
荒木桃香(クロステックデザインコース )

撮影:
中田挙太

つくるひと、つかうひと
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水引|平井喜久雄さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、京都で「水引」をつくり続ける、平井水引工芸の平井喜久雄さんです。