つくるひと、つかうひと
#04


桐箱|森久杜志さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、京都で「桐箱」をつくり続ける、森木箱店の森久杜志さんです。

森木箱店 森久杜志さん
時代ごとに名前を変えながら創業100年以上になる森木箱店の4代目。
美術大学で陶芸を学んだ後、1年間釉薬の勉強を行ない、修行に入る形で家業を継ぐ。
集金や配達など、ものづくりだけではない仕事もこなしながら10年以上修行し、プロとして小手先ではなく体で覚えた桐箱作りで、伝統を受け継ぐ。


目次:
文化を担う桐箱
道具の手入れもプロの条件
八角形の桐箱
こだわりぬかれた手仕事


文化を担う桐箱

──なぜ、京都で桐箱づくりが発展したのですか?

大きな要因は、茶の湯文化ですね。茶の湯に使う陶芸品を入れるのに桐箱が使われてきました。桃山時代の華やかな文化からいろんな工芸が発展していると思います。

日本だけなんですよ、木箱を重んじる文化があるのは。なんでかっていうと、お茶会だったりが、お客さんに向けてのおもてなしだから。どういう風にすれば喜んでもらえるかを考えているんです。それが、桐箱の様式美だったりに現れているんです。

──様式美というと特にどんなところに現れていますか?

「ふたがき」という、蓋の中にかくお墨付きがあります。

木箱に紐をかけて、ふたがきをするっていうのは、いわゆる名刺がわりなんです。その木箱の紐の種類だったり、仕様を見たら、中に入ってる陶器だったりの値打ちが、だいたい分かるんです。それだけ木箱っていうのは入れ物として重要なんですよ。

──今でも、清水焼の職人や桐箱の中に入れる工芸品とのつながりはあるのですか?

もともと指物師が桐箱を作っていて、そこに需要が生まれました。だから、昔から隣り合わせの関係ですね。着物屋さんがあったら、染め屋さんがいてみたいな。

昔は陶器の入れ物として、もっと需要があったと思うけど、今は必ずしも木箱の中に陶器を入れる風習がないので、昔ほど深い関係はないです。


道具の手入れもプロの条件

──森木箱店さんだからこその強みはなんですか?

それぞれの工房に専門がありますが、うちは小さいものから国宝級のものまで、幅広く扱っているのが強みです。

技術で言えば、鉋で手作業していることです。箱に機械じゃなくて刃物で磨きをかけるので繊維を壊しにくいんです。だから、機械でかけているものより劣化が表に出にくいようになっています。

他にも、木箱以外のものでもオーダーで寸法のずれなく作れるのも強みですが、やっぱり1番の強みは鉋の手仕事です。

──鉋を手入れしたりすることも仕事のうちなんですね。

そうです。指物師は修行に入ると、まず刃物を研ぐところから習います。
この研ぐ作業も、素人なら半日はかかります。プロなら10分くらいですかね。

刃物をまっすぐ研ぐには、両手を使った時にブレがないように100%のシンクロ率が求められます。ですから、研ぐ時間が長引けば長引くほどズレが生じるんです。

刃物を研ぐことができて、初めて木を削る仕事に進めます。道具の手入れの技術を持ち合わせているので、鉋はオークションなどで購入して、自分で研いで使います。安いから。

削ろう会という鉋削りの大会では、素人の金持ちは高っかい鉋を買って挑戦しますが、俺は安い鉋を自分で研いで挑戦します。技術があるから。それが自慢です。


八角形の木箱

──なぜ、八角形の木箱を作ろうと考えたのですか?

一つは、紐を結んだ時に六角形の普通の箱よりも、八角形の箱の方が見栄えが綺麗だったからです。もともとは、俺の親父が六角形の箱から紐の結びなどを考えて、それでできたのが八角形の箱です。

最初は四角の箱で、そこからお茶碗だったりを入れた時に四角の箱より収まりが良かったから六角形の箱を作りました。

そこからさらに見栄えを考えてつくられたのが、八角形の桐箱です。


こだわりぬかれた手仕事

──森さんが思う桐箱のとくに良いところやおすすめの使い方はありますか?

桐箱の良いところは、飴ちゃん入れから、お弁当箱、抹茶椀までオールラウンドに使えるところです。大切な人への贈り物を入れるのもいいと思います。

使い方が人によって無限に広がるところが魅力ですね。

桐箱の機能でいうと、湿度を一定に保ってくれるのでパン入れやコーヒー豆を入れて使ったりしています。カビが生えにくいので。漆などの工芸品を入れておくのにも、この特性は適しています。

──桐箱のここを見てほしいというところはどこですか?

豆鉋やその他の刃物をつかって、機械に頼らず手作業で仕上げたからこその桐箱の質です。
丸みだったり、触り心地だったり、その質感を出すために、自分で道具の刃先を削るなどの工夫を行います。作るものの大きさや形に合わせて、それ専用の道具を揃えるわけです。

もちろん、こだわっているのは道具だけではないです。木の縮みだったり反りを考えて行う工夫もたくさんあります。

木箱の縮みは乾燥させて遅らせることはできても、止めることはできません。だから、逆に木がどう縮んだり反ったりするかを考えて、その逆方向にわざと反らしたりします。

桐箱に触れることで、こだわりぬいた手作業に気づいてもらえると嬉しいですね。


皆さんは夏場にもらうお素麺の桐箱をとっておいた経験はないでしょうか。元々は抹茶碗を入れるための箱であり、陶器など割れやすい大切なものを守ってくれます。

【森木箱店】桐製の八角箱

4代続く森木箱店さん。清水焼団地町にある森木箱店は普段オーダーでの注文を受け付けており、桐箱だけではなく様々なものを作っています。
桐箱は軽くて、ふかふかとした触り心地。こんなに触り心地がいいのは職人の技が施されているから。
鉋は箱の形や大きさに合ったものを使うため森さんご自身で研ぎ道具の形を改造したりする事もあるそうです。


つくるひと、つかうひと
#04
森木箱店 森久杜志

文:
則包 怜音(油画コース)

撮影:
中田挙太

森木箱店 HP:
https://mori-kibako.net/

森木箱店 Facebook:
https://www.facebook.com/%E6%A3%AE%E6%9C%A8%E7%AE%B1%E5%BA%97-367127913347107/

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桐箱|森久杜志さん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、京都で「桐箱」をつくり続ける、森木箱店の森久杜志さんです。