つくるひと、つかうひと
#06


桐箱|八幡はるみさん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回ご紹介していただくのは、本学染織テキスタイルコースで教員を務めながら、作家としても活動を続ける八幡はるみさん。教員、作家、家庭人と複数の視点を大切にしている八幡さんの“工芸品のある暮らし”を伺いました。

八幡はるみさん
大阪に生まれ育ち、京都で美術を学ぶ。
京都の浄土宗のお寺の4男と結婚し、以来京都に在住。現在は比叡山中腹のアトリエ兼住居に住まう。
23歳の時に、氏神さんの春祭りで食べた「鯖寿司とだし巻き」がきっかけで料理好きに。
冷蔵庫にある食材だけでおいしい夕食を作るのが得意で、台所は息抜きの場。
本学染織テキスタイルコースの教員となり30年。教員、作家、家庭人、3足のワラジを履き続けた人生。時間のやりくりは大変だったが、だからこそ気づいた視点があり、3足どれも大事だった。複数の価値観は私が成長するために今でも必要。


──桐箱へのイメージやご存じの知識などはどんなものがありましたか?

桐の箱は自然素材でありながら密閉生が高く、高湿度の日本の風土にかなう保存容器だと理解している。ただ、高価なものなので日常の普段使いには向かず、記念品や贈答品や家宝などを保存するための非日常な道具であると思い込んでいた。

──今回は、八幡さんの生活にどのように取り入れたり、使用しましたか?
また、そのように取り入れた経緯なども教えてください。

この機会に、日常使いに向かないという自分自身の思い込みを払拭しようと、思い切って食品を入れてみた。私は、自分でブレンドしたシリアルに豆乳ヨーグルトをかけたものを朝食としている。桐箱の中でブレンドシリアルを作り、ストックする。

僭越ながらレシピも紹介すると、まず市販の糖質オフのシリアル60%、炒りゴマ10%、きなこ10%、胡桃5%、アーモンド5%、シナモンパウダー5%、ジンジャーパウダー5%(調合割合は実は適当)を混ぜ込んでストックしておく。時には抹茶や海苔、ブルーベリーやキウイ、酒粕やこぼれ梅(みりんの酒粕)が入ることも。毎朝、カップにこの「ブレンドシリアル」を半分ほど入れてヨーグルト、蜂蜜なども投入。これで昼まで十分に元気!

シリアルを入れた経緯としては、普段食材や余った料理の保存にはプラスティックの密閉容器を使って冷蔵庫に入れているが、その佇まいは味気なく、そのまま食卓に持ってくると無作法。そこで最近は陶器製やホーロー製の容器を使うことが増えた。脱石油製品、その流れでこの桐箱に食材保存という用途を持たせることに今回トライしてみた。もちろん冷蔵所には入れず台所の片隅での保存ということで。

──実際に桐箱を使用してみて、気づいたことや感想を教えてください。

朝食のテーブルに並ぶ姿がとにかく美しい! 食欲だけでなく目の欲望も満足させてくれる。
上記の食材を直接入れても、湿気ることなくドライな状態をキープしている。密閉性という機能においても、とても優れている。

桐箱を使ってみて、改めて桐箱含めいわゆる『工芸品』はもっと日常で使われないといけないと思っている。スーパーのプラスティックバックが有料化されたが、家庭の中からも石油製品を徐々に追い出し、その替わりに自然素材による道具を使いたい。

もともとウチではご飯茶碗は木製だし、竹のザルやカゴも部屋のあちこちでいろいろな用途に使う。自然素材は気持ちいいし、軽いし、経年変化するさまも美しいのだから、日常に使わない手はない。

──この工芸品のもっと良くなるところや使用する上での注意点などありますか?

流通の前線に出てきてほしい。そうなると、形態や大きさのバリエーションがほしい。サイズも大・中・小とモジュール化して、重箱のようなスタッキング機能もあれば便利。価格の高さは、品質の高さゆえやむを得ないです。「大事に長く使うと決して高いものではない」とユーザーこそが意識変革しなくては。

──さいごにあなた独自の視点で、この「桐箱」に星をつけてください。

・工芸品なのにカジュアル:★★★★☆
・工芸品なのにオシャレ :★★★★☆

さいごに ……
今回の桐箱を作ってくださった森木箱店さん。実はずっと以前にコースの学生に、卒業制作の織物を収納する反物箱と植物染料で染めた糸を展示する標本箱を作ってくださいました。
反物箱は収納目的だけれど、箱からスーッと布を引き上げてそのまま展示もできるというもので、合理的で美しい展示でした。本人に聞いたら、その時の設計図も見せてくれたので嬉しくなりました。丁寧な学生とやさしい職人さんとの出逢いでした


皆さんは夏場にもらうお素麺の桐箱をとっておいた経験はないでしょうか。
元々は抹茶碗を入れるための箱であり、陶器など割れやすい大切なものを守ってくれます。

【森木箱店】桐製の八角箱

4代続く森木箱店さん。清水焼団地町にある森木箱店は普段オーダーでの注文を受け付けており、桐箱だけではなく様々なものを作っています。
桐箱は軽くて、ふかふかとした触り心地。こんなに触り心地がいいのは職人の技が施されているから。
鉋は箱の形や大きさに合ったものを使うため森さんご自身で研ぎ道具の形を改造したりする事もあるそうです。


つくるひと、つかうひと
#06
染色作家 八幡はるみ

文:
則包怜音(油画コース)

つくるひと、つかうひと
#06


桐箱|八幡はるみさん

今日までありつづける工芸品は、そのものの形の美しさや用途だけではなく、守り続けられる技術や思いなど、目には見えない背景も含みながら「つくり手」によって受け継がれています。
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回ご紹介していただくのは、本学染織テキスタイルコースで教員を務めながら、作家としても活動を続ける八幡はるみさん。教員、作家、家庭人と複数の視点を大切にしている八幡さんの“工芸品のある暮らし”を伺いました。