一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#06


畳|福井徳製畳店


畳の需要は思いの外、減っていない

京都文化博物館のすぐ近くで福井徳製畳店が戸を開け放ち、土間を無防備に見せて今日も元気に営業しています。昔ながらの畳から最新式の畳まで、分け隔てなく扱います。4代目・福井啓之さんはおしゃべりが得意。それもあってか畳製作の職業訓練校で先生も務めています。「教えるってほんま大変やね。先生をして帰ってきたら精神的に疲れるし。せやけど仕事は仕事で体が疲れるわ」と笑っています。

アポなしでお伺いした時は、ちょうどお茶室から古くなった畳を引き上げてきたところでした。「この辺はお茶室、お寺、旅館、町家といろいろあるんで助かるわ」と京都の街の畳屋はこの先もまだまだ残ると余裕の表情。僕はてっきり、畳の需要は減りに減ってるんだろうと思っていたので意外でした。「マンションやらも一時はフローリングだけやったのが、最近は一室だけは和室みたいなのが多い」ということで上り調子です。

その引き上げてきたばかりの畳のサイド部分を指差して、(訊いてもないのに)畳の知識を教えてくれました。縁(へり)の藍染め生地も麻と綿で見た目が少し変わります(値段は麻のほうが上)。縫い目のピッチも違います。ピッチが短い方が高価。麻縁の短ピッチが茶室に、綿縁の長ピッチは待合(まちあい)に使われていた畳です。「誰も気づかへんかもしれんけどね」。そんな差の付け方がまさにお茶の世界やなあ。

この茶室の畳は、トラディショナルな藁床に畳表を縫い付けたもの。断面を見せてもらうと、縦横交互に重ねて層になっているのが分かります。それを縫ってぎゅっと圧縮しているのです。

最近は発泡スチロールの畳床が主流ですが、発泡スチロールは、30年でダメになるのに対して、藁床は100年以上使えます。そしてほかす時も、ゴミにならない。畑に撒くと肥料になる。ただし、みっしりと藁なのですごい重さ。1枚キロもあり、運ぶのが本当にたいへんです。「ほんまにキツい仕事やで畳屋は。体力ないとできひんな。息子がおってよかったと思うわ」。ということで後継ぎは息子、智之さんに決まっています。

お寺に茶室と書いてきましたが、しかし実際の注文は一般の家庭が大半です。長持ちするものなので、一回納めてから次の注文までが長い。まだまだ京都には町家が多いし、日本式の住宅を愛する人も多いということでしょう。

商いが続いてきた理由は「まずは跡取りがいることが大事。あとはやっぱりしっかりした技術やね」。技術は走った距離です。〝走った距離は裏切らない〞と昔マラソンランナーが言ってました。「クレームがきたらそれで信用をなくす。あの畳屋下手やしって言われたらアウト」。技術と知識をしっかり身に付けて、その上で丁寧、親切が信条です。


道具はケチったらアカン

長くこの仕事を続けてきましたが「今でも、家で寸法とって、畳を仕立てて納めるまでドキドキ」だと言います。それがピタッとはまるとスッとする。「畳は全部同じサイズやと思ってはるでしょ?違うんですよ、微妙に違う」。それはハラハラしますよね。「納めるとき施主さんが見てはったらね、ものすご緊張するんですわ。見んといてくれ〜って」。

福井徳製畳店のひそかなこだわりは多分「道具」です。「道具はケチったらアカンのです」と見せてくれたのは3代に渡って使っている道具の数々。かなり鋭利なものもあるので、人が見つけにくいところに隠されています。おしゃべりが得意な啓之さんも、この道具を持って畳に向き合った途端、職人の顔、背中に変わったことをここに記しておきます。


福井徳製畳店

明治3年(1870年)創業

家屋の畳から寺院の畳まで幅広く作ることができる「福井徳製畳店」。デザインは日本古来の「わびさび」を大切にしており、生活のスタイルの多様化に合わせてもいます。京都文化博物館の近くにある120年以上続く、畳一筋な老舗の畳店です。

住所:〒604-8115 京都市中京区高倉通り姉小路上る亀甲屋町607
営業時間:8時30分~18時00分
電話番号:075-221-5759
アクセス:地下鉄烏丸線 烏丸御池駅 徒歩3分
HP:http://tatami-fukui.com/


淡交社 208ページ・1800円+税

「一〇〇年生き抜く 京都の老舗」

100年以上続く、京都の老舗35店を訪ね歩いた市内冒険的著書。
KYOTO T5センター長であり、デザイナーの酒井洋輔がインタビュー、文、写真、デザインと全て一人で行ったもの。
日本一の観光都市である京都は、観光スポットがありすぎて、それらを回るだけで数週間かかるほど。
しかし、京都の京都らしさを作っているのは本当にそのような観光スポットでしょうか。
100年以上続いているということは、住む人に愛されている証であり、確実に京都を形づくる要素と言えます。
「秘密の街・京都」の秘密、京都らしさのソースを知ることになる一冊。
新しいガイドブックの形です。


一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#05
村上重本店

文・写真:
酒井洋輔

一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#06


畳|福井徳製畳店