一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#08


棕櫚|内藤商店

内藤商店

看板出さずに200年

三条大橋を西へ渡ってほどなく、箒(ほうき)が下がるエントランスが見えたら内藤商店です。看板がないので京都の人でも名前を知らない人は多いはず。(看板なしで200年超ってすごいナ)

「いいもの売ってたら看板あげなくてもお客さんは来てくれはる」とおっしゃるのは7代目お上、大の人気者の内藤幸子さんです。

ここでは、棕櫚(しゅろ)を材料とした箒、束子(たわし)、刷毛(はけ)など日用品を扱っています。棕櫚が茶色いため、店内は全体的に茶色のトーンです。

また棕櫚だけでなく、黍(きび)を使った小さな箒や、竹や藁(わら)の製品もありますが、藁箒(タバコ屋箒)は稲作の機械化によって収穫時に藁が細かく切断されるため、材料入手が困難になり、職人もいなくなってしまいました。お上さんは誠に残念がっています。

内藤商店で扱う製品は、すべて自然素材と職人の手仕事によるものなので「ほかしても、
何も悪いもん出やしません」し、「自然にも職人にも感謝しないといけません」。

このような考え方は、SDGsの先駆けというか、いやむしろ〝古いものは新しい〞というか、昔の人の方がよほど立派だったなぁと思わずにはいられません。


会いに行くことが職人を大切にすること

最近は若いお客さんも増えているようで「若い人もちゃんと考えたはりますよ」とおっしゃいます。

あれ? お年寄りって「若い人はなんも考えとらん」的なことを言う人ばかりではなかったか。ここには例外がいらっしゃる。

その理由は、内藤商店が誰かに託して売る(卸など)のではなく、ここでしか売らないことと、お客さんに会って使い方もじっくり説明してお話することを守っているからなのだろうと思います。

しばしば〝時代に合わせて変えていく〞というような話を見聞きしますが、そうおっしゃる大人たちの一体何割が、実際に若い人に会って、話をして時代を感じているのでしょうか。

幸子さんはお客さんと話すのが大好きで、その時間を大切にしているだけでなく、なんと職人の元へも2、3か月に一度の頻度で訪れて、話をしています。

棕櫚は和歌山が産地なので、この頻度で通うことはなかなか大変だと思います。幸子さんにとっては、職人を大切にすることは、製品を売ることのみならず「会いにいくこと」によって果たせているのです。

「お客さんがこういうものを欲しいと言わはったら、できひんかなと訊いてみたり」と、新商品開発もします。


大学2回生で継ぎたいと申し出た

果たして、このような素晴らしいお店は、もう後継ぎも決まっています。伝統産業の後継者問題は、どこへ行っても深刻ですが内藤商店は例外。

後継者を名乗り出た、幸子さんの孫にあたる江後重典さんに理由を聞くと「生まれた時から、こういうものを見てきたからか歴史が好きで、大学も文化学部の京都文化学科で」とのことで、ここがお店だけでなく、住まいでもあることが判明。

三条大橋のたもとですよ。「はい、代々ずっとここに住んでます。大家族ですよ。大学では、伝統文化を学んでいて、後継者不足や衰退の現状についても知ることになりました。自分が偶然こういう家に生まれ、自分が終わらせたら昔の人に申し訳ないとも思って、何かできることはないかと、大学2回生の時に祖母に言いました」とのことです。

幸子さんは「うれしかったですよ」とにやにや。

大学を卒業したばかりの重典さんは、これから一旦、和歌山の棕櫚の職人さんの元で修行
して、製品を作れるようになって帰ってきます。現地では「作れるようになること」以外の生活や経験にもたいそう価値がありそうです。作り方だけ学んで帰ってくるようでは、幸子さんは納得しないでしょう。

なんせ頭はキレキレで、仕事もできる、お年を召されても看板娘。そんな甘やかした目でお孫さんを見ているはずがないと僕は思います。


桔梗利 内藤商店

文政元年(1818年) 創業

200年以上続く、三条大橋のすぐそばにある「桔梗利 内藤商店」。内藤商店で扱っている箒は棕櫚や竹など、自然のものを使っている。電気・音要らずの棕櫚の箒の値段は、短めのものが5,500円。長いものが13,200円。たわしは440円。

住所:〒604-8004 京都府京都市中京区三条大橋西詰
営業時間:9時30分~19時30分
電話番号:075-221-3018
アクセス:京阪本線三条駅・西へ徒歩1分


淡交社 208ページ・1800円+税

「一〇〇年生き抜く 京都の老舗」

100年以上続く、京都の老舗35店を訪ね歩いた市内冒険的著書。
KYOTO T5センター長であり、デザイナーの酒井洋輔がインタビュー、文、写真、デザインと全て一人で行ったもの。
日本一の観光都市である京都は、観光スポットがありすぎて、それらを回るだけで数週間かかるほど。
しかし、京都の京都らしさを作っているのは本当にそのような観光スポットでしょうか。
100年以上続いているということは、住む人に愛されている証であり、確実に京都を形づくる要素と言えます。
「秘密の街・京都」の秘密、京都らしさのソースを知ることになる一冊。
新しいガイドブックの形です。


一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#08
内藤商店

文・写真:
酒井洋輔

TOP写真:
小山薫堂

一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#08


棕櫚|内藤商店