一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#07


鰻|京極かねよ


誰も新しくしなかった

賑わう新京極の六角通に「日本一の鰻」と謳った老舗、京極かねよがあります。
初代は現在の場所ではなく錦小路で営んでいましたが、現在の建物が空いて、見事に引っ越すことができました。

古い建物が多く残る京都の中でも、一際目を引くこの外観は、大きな旅籠(はたご)か芝居小屋かというような店構え。

7代目・樋口政和さんは長く続く理由を「運がいいから」と断言します。

「この建物でなかったら、こんなに有名になってない」。自信を持って建物のおかげだと言います。面白い人。

「長い歴史の中で新しくするチャンスは何回かあったと思うけど、誰も新しくしなかったことも運がいい」。たしかに、お店や建物が新しくされて雰囲気を失った例は全国でいくらでも挙げられます。

僕の一番好きなラーメン屋も勝手に内装をリノベしてがっかりさせてくれました。悔しいです。マジョリティは新しくしたがる方。そんな中で京極かねよの代々の主人がお店を新しくしなかったことは、たしかにとっても運がいい。外観だけでなく内装も昔のまんまです。

言われてよく見ると、天井も若干斜めに傾いており補強の木が入っています。驚くことに「年中無休ですが、突然休むことがあります。補強工事をしないといけなくなって止むを得ず。それはだいたい突然きます」と、何か問題が生じたら修理、補強して続いてきた建物。

政和さんはうなぎより、建物に愛着あるんちゃうかと思うほど。小学生の頃から学校が終わったらこの建物で遊んでいたので仕方ない。


今日しか来れない人が必ずいる

それにしても年中無休ってたいへんだし、珍しい。それは「今日しか来れない人が必ずいる」という言い伝えが理由です。

「見直そうと思っても、それ言われると」と笑います。かねよと言えば、火事の時、お金よりタレを守ったことが有名なエピソードですが、それもこれも〝昔からのことを続ける〞のを大切にしているからだと思います。

いいと思うことも時代錯誤だと感じるルールも、続ける。これは一つのやり方なのでしょう。定休日は作らない、作業も簡略化しない、量産しようとしない、食券もデジタル化しない。しないしない。

厚紙で作った簡素な食券がすごくいい味を出しています。なんの価値もなさそうなものですが、これも捨てません。「ライスの札なんか、今の時代こんなにたくさんいらないんですよ」と言いながら、しかし残しています。

そういえば、店を入ったところに下足番の方もいます。こんなのなかなか見られません。レジのための小屋も残っています。「僕は出勤するとだいたいそこへ入れられるんですよ」という小屋です。政和さんに会いたければ小屋を見ればいいです。

肝心のうなぎは、国産だけを使っており、少ない日は50キロ、多い日には100キロ、かねよを通じて誰かのお腹に入ります。

守り抜いたタレは調理長(70歳以上)と次席しか作り方を知らず、社長が作り方を聞いても教えてもらえません。

どういう根拠で〝日本一の鰻〞を謳っているのか聞きましたが、なんと、お客さんの子どもがうなぎを食べた後「日本一の鰻」と自主的に書いた文字を先代が気に入り、商標登録したという代物でした。それが現在もお店の看板になり、正面玄関に飾られています。

そやけどこれが子どもの字かというほどの達筆です。どこまでも運。京極かねよは、運でできていました。


京極かねよ

大正時代初期 創業

大正初期から創業している、「京極かねよ」。新京極の中でも目立つレトロな佇まいをしている。実は3階建てだったが、戦前に火事に見舞われ、2階建てに。それでも、タレは創業以来、百年継ぎ足しで守り続けられている。熟練の職人が作る、鰻料理は絶品。定番のうなぎ丼・並の値段は2,600円。

住所:〒604-8034 京都市中京区六角通新京極東入松ヶ枝町456番地
営業時間:11時30分~21時00分
電話番号:075-221-0669
アクセス:地下鉄東西線・京都市役所 徒歩約5分
HP:https://www.kyogokukaneyo.co.jp/index.html


淡交社 208ページ・1800円+税

「一〇〇年生き抜く 京都の老舗」

100年以上続く、京都の老舗35店を訪ね歩いた市内冒険的著書。
KYOTO T5センター長であり、デザイナーの酒井洋輔がインタビュー、文、写真、デザインと全て一人で行ったもの。
日本一の観光都市である京都は、観光スポットがありすぎて、それらを回るだけで数週間かかるほど。
しかし、京都の京都らしさを作っているのは本当にそのような観光スポットでしょうか。
100年以上続いているということは、住む人に愛されている証であり、確実に京都を形づくる要素と言えます。
「秘密の街・京都」の秘密、京都らしさのソースを知ることになる一冊。
新しいガイドブックの形です。


一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#07
京極かねよ

文・写真:
酒井洋輔

一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#07


鰻|京極かねよ