一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#14


五色豆|本家 船はしや


五色豆の最後の一軒になる

京都の三条大橋のたもとにスターバックスができたのは2000年、大きな話題となり多くの若者や観光客が訪れました。その当時も普通に、たんたんと、その隣で五色豆やおかきを売っていたのが本家船はしやさんです。名物は五色豆。えんどう豆を砂糖で包んだシンプルな菓子です。

現在は京都のおみやげも多様化しました(その多くは made in Kyoto ではありません)が、一昔前の京都みやげといえば八ツ橋か五色豆の二択でした。きっと多くの業者が心ない五色豆を量産したのでしょう、「皆、五色豆はまずいもんやと思ってる」ことで燃えた3代目のご主人とお上さんが、工夫をこらしてちょっと他にはないものを作り上げました。

特に赤と黄が面白い。赤は梅。いろんな産地の梅を試しましたが、北野天満宮の梅をフリーズドライにしたものが最良という結論に至りました。黄は柚子。昔から変わらず高知の北川村の柚子を使っています。口に入れるとゆずの香りがすっと抜けていきます。赤も黄もどちらもほのかです。

五色豆を食べたお客さんに「考えが変わった」「お宅のやないと食べられへん」とか言われるのが一番嬉しい。3代目のお上さんは、とにかく誇りを持っていて、このお店が五色豆の最後の一軒になるのが夢。「その前に私は死んでるやろけどなぁ」と笑っておられます。


ここで作って、ここで売っている

船はしやでは、五色豆だけでなく、様々な種類(約40種)のおせんべいやおかきも販売しています。4代目・辻博久さんによると、それらは外部職人のおじいさんが1人で米から作っていたりするので、機械と違って量産はできません。そして五色豆は、お店の奥で作っています!

製造が郊外や県外(または海外)で、お店だけ街中という現代の方法とは違います。作るところと売るところは同じ空気でつながっています。作る人も売る人も同じです。輸送で二酸化炭素を出したりもしません。ここは三条大橋のたもと、京都の一等地です。なんと贅沢なことでしょう。それを贅沢だと思わせるこの時代がおかしいのかもしれません。

「ここでずっと作ってるよ。町内の人も知らん人多いと思うわ (笑)」「子どもの教育にもなる。お寺の子が自然とお経を憶えるんと一緒」。


百貨店のために働いているように感じた

以前に一度だけ、百貨店の催しに出店したことがありますが、お上さんは「これはお客さんのために働いてるんやない。百貨店のために働いてるんやないか」と感じ、もう一切やらないことにしています。そんな時間があるんだったら、お店とお客さんのために働きたいと考えるようになったと。

そんな気持ちもあって、より多くの人に知ってもらうためにビジネスを拡張する気はありません。なぜなら「広げたら、次の子が才能なかったら大変やん? かわいそうやろ」。あれ? なんか今すごいこと言われた気がする。理由はともかく、ビジネスを広げようとしないのは、京都の老舗の傾向かもしれません。

さて、僕のイチオシは山椒の効いてるおかきです。普通のおかきに山椒を振りかけても、こうはなりません。口に入れて少しの間、山椒はじっとしています。それから堂々と舌と鼻にいたずらをはじめる。数名で食べると、おかき好きでもないはずの人までパクパク食べるので、気が付くとなくなっている。そんな具合ですから、夜一人で食べた方がよいです。

船はしやさんのおかきは、レジに持って行ってから「!」と高値に驚きもしますが、それは顔には出さずプライドを保ちたい。こんな一等地で作っていて、職人の手仕事で、ここでしか買えないし、そして飽きない。理由に頭では納得している。でもこれまでの人生のおかきの値段と違う。ビニル袋に金の帯で留めただけの簡易包装でこの値段は。とウジウジしてしまうのです。

と、これくらい書いておけば、読者が実際に訪れた際に「そんな高くないヤン!」と思えるでしょう。うーん、美味しいもんは、高いなあ。


本家 船はしや

明治38年(1905年)創業

三条大橋のたもとにある、「本家 船はしや」。店にはたくさんの豆菓子が置いてあり、その数は約100種類以上ある。北大路魯山人が看板を書いたり、宣伝カーで家長や家族を乗せて街中を走っていた歴史がある。五色豆袋入りの値段は540円。

住所:〒604-8004 京都市中京区三条通河原町東入る中島町112 
営業時間:10時〜20時
電話番号:075-221-2673
アクセス:京阪電車・三条駅から徒歩約6分
HP:http://www.funahashiya.com


淡交社 208ページ・1800円+税

「一〇〇年生き抜く 京都の老舗」

100年以上続く、京都の老舗35店を訪ね歩いた市内冒険的著書。
KYOTO T5センター長であり、デザイナーの酒井洋輔がインタビュー、文、写真、デザインと全て一人で行ったもの。
日本一の観光都市である京都は、観光スポットがありすぎて、それらを回るだけで数週間かかるほど。
しかし、京都の京都らしさを作っているのは本当にそのような観光スポットでしょうか。
100年以上続いているということは、住む人に愛されている証であり、確実に京都を形づくる要素と言えます。
「秘密の街・京都」の秘密、京都らしさのソースを知ることになる一冊。
新しいガイドブックの形です。


一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#14
本家 船はしや

文・写真:
酒井洋輔

一〇〇年生き抜く 京都の老舗
#14


五色豆|本家 船はしや