
──この中で最年少の諒くんは今日の話を聞いてどう感じました?
小嶋諒(弟):
やっぱりみんなちゃんと考えてはるなあって思いました。
ぼくはまだそこまで考えられてないと反省しました。
冨田睦海(弟):
まあ、まだ若いもんね。
小嶋諒(弟):
いやぼくももう30なんで、あんまり若いとかも言うてられないんですよ(笑)。
ただ、あんまり深くは考えすぎるのも良くないなと思ってて。
兄貴も言ってたように、いまの環境が自分たちの子どもの頃とまったく同じ環境なので、自然なかたちで小嶋商店というブランドも、それから子どもたちの環境も育てていけたらいいなと思います。
冨田珠雲(兄):
夢というか、今後やってみたいこととかってあるんですか?
小嶋諒(弟):
いまじつはデニムで小嶋商店のユニフォーム作ってます。
冨田睦海(弟):
ユニフォームやったら、ホラ、ぼくらも冨田工藝のユニフォーム作りましたよ!

冨田珠雲(兄):
弟がTシャツでぼくがポロシャツ。
小嶋諒(弟):
ぼくらはもっと私服に近づけようかなと。
そのまま外出ていけるような。
冨田睦海(弟):
いや必要やと思うわ!
やっぱりやりたいなと思う人を増やすためには見た目って大事やから。
小嶋諒(弟):
あれを着たいと思うとかって…。
冨田睦海(弟):
絶対あると思うよ!
小嶋諒(弟):
野球とかサッカーチームとかでも、やっぱりユニフォームって憧れありましたもんね。
あの服着て試合出たいとか。
冨田睦海(弟):
ぼくのもともとの職人さんの服装のイメージってジャージやったんですよ。
だからぼくはもうそれを絶対に打破しないといけないと考えてました。
でも一日中作業場こもって仕事して、会うのが家族だけとかっていう生活になってくると、髪型とか気にしなくなってくるでしょ?
小嶋諒(弟):
わかります!
もうスウェットとかで仕事してたりしますからね。
冨田睦海(弟):
でもぼくは自分がファッションとか好きやというのもあるけど、見た目は大事やなって思いますね。とくに歳を重ねると。
冨田珠雲(兄):
こんな話で大丈夫ですかね(笑)
小嶋諒(弟):
いや!でもこれ逆にめっちゃリアルな話やと思いますよ。
──皆さんお子さんがいらっしゃって、でもお子さんが「継ぎたくない」となった時、この技術をどう伝えていくかって考えたりしますか?
冨田珠雲(兄):
あのね、弟子って漢字で書くと「弟」と「子」なんですよ。
けどべつに実の子じゃなくていい。
自分の思いさえ伝わればそれでいい。
実際に自分の子が「こいつあかんで」「続かへんで」と思ったら、もう絶対やらさんほうがいいと思うんですよ。
小嶋俊(兄):
ああー。それはほんまにそうや思います。
冨田珠雲(兄):
だからさっき諒くんも言ってたみたいに、やりたかったらなんとなくやらせてみて自然にやってくれるのが理想やと思ってます。
だから別にぼくの後継をしてもらわんでもいい。
弟子も育っているし、子どものことは何も心配はしてません。
逆の言い方をすると、家業があるから、もし勉強ができひんかったらうち来たらいいやんくらいの感じです。
引きこもりたかったら引きこもったらいい(笑)。
小嶋諒(弟):
そういう子の方がこの仕事向いてますもんね(笑)
冨田珠雲(兄):
そうそう。ほんまに。
冨田睦海(弟):
ぼくひとつ小嶋くんにすごく聞きたいことがあって。
小嶋俊(兄):
なんですか?
冨田睦海(弟):
小嶋くんがこの仕事始めた時、まだおじいちゃん、いはったんですか?
小嶋俊(兄):
そうですね。
冨田睦海(弟):
それは、いまも?
小嶋俊(兄):
いや、去年おじいいちゃん亡くなって。

冨田睦海(弟):
ああ、そう。
じゃあ、おじいちゃんに仕事教わったりもしてたんですか?
小嶋俊(兄):
そうですね。
ぼくはさっきも言ったように竹割り担当なんですけど、おじいちゃんが竹割やったんで、最初はむしろ親父よりおじいちゃんから教わってたんです。
冨田睦海(弟):
へえ!
小嶋俊(兄):
そう、だからおじいちゃんに教わった力で、いまぼくは生きていけてるわけなんです。
冨田睦海(弟):
ああ、そうなんや!
小嶋俊(兄):
だから亡くなる前に何回も話しに行ったり、なんでいままでこの仕事がんばってこれたんか?とか、いろんな話を聞かせてもらったんですけど、亡くなってから「なんでもっといっぱい話聞いとかへんかったんやろ?」って。
元気な時ってなんとなく聞けなくて。
いやホンマもったいないことしたなあと思うんですけど。



冨田珠雲(兄):
ぼくはおじいちゃんに教わった最後の弟子で、弟が本格的に始めた時はもう亡くなったはったんです。
せやのに、弟がおじいさんから一本だけもらった刃物が、じつはアタリの刃物で。
冨田睦海(弟):
めちゃめちゃ切れる刃物やったんです。

小嶋諒(弟):
へえー!そうなんですか?
冨田珠雲(兄):
ぼくらが使ってる中でも最高の切れ味の刃物を、弟は最初に使ってるんですよ。
ぼくなんかもう替えてほしかったくらいで(笑)
小嶋俊(兄):
へえー。
冨田珠雲(兄):
研ぎが未熟でもスパーンと切れるんです。
ええ刃物でした。
──いっぽうで、いまの時代は職人もただ作るのが上手いだけじゃダメな時代になっている。それはそれでしんどいのではないか?作るのだけが好きで得意な人がいてもいいんじゃないか?
冨田睦海(弟):
よくそう言われるんですけど、でもじつは「職商人(しょくあきんど)」という言葉が昔からあるんですよ。
昔の人はみんな職商人やった。

冨田珠雲(兄):
昔は作って売ってはったからね。
小嶋俊(兄):
あー、なるほどー!
冨田睦海(弟):
だから結局はそこへ戻って行ってるんかなあと、ぼくは思ったりもしますけどね。
冨田珠雲(兄):
近江商人とかそうでしたからね。
それがだんだん売る専門家になって、作る人に発注して、卸ができてっていう、いまの商社みたいなかたちができていったんすよね。
小嶋諒(弟):
そういうことやったんですね。
冨田珠雲(兄):
でもいまはそんな大規模に商売するほどに数が売れへん時代でしょ。
冨田睦海(弟):
そう、だから逆にぼくはいま、もう一回そこへ戻りつつあるんじゃないかなって思ってるんですよ。
小嶋俊(兄):
たしかにいまは会社も社会もコンパクトになっている気はしますね。
冨田睦海(弟):
あと、自分が40歳になって思うのは、作れる数って限度があるなっていうこと。
天井が見えたんですよ。
小嶋俊(兄):
あー!なるほどなあ。
冨田睦海(弟):
ものすごくたくさん注文いただいても、結局は納期に追われて、気持ちばっかり焦ってしまう。
でも商売人さんらは「いや前は1か月でできたやん」と。
それで発注書先に切られてしまうと「せなあかん」という使命感を背負わされてしまう。
そしたらとりあえず納期に余裕のあるのものを後回しにするでしょ。
でも気がついたらその放っておいた案件の納期が3週間に迫ってる。
もうこの無限ループです。
でも結局よくよく計算してみたら売り上げの天井ってだいたい決まってる。
こんな忙しいのにって愕然となる。
小嶋俊(兄):
いやーそうなんですよ!
そこがもうほんますっごいジレンマで。
冨田睦海(弟):
だからぼくがよく言ってるのは、「工芸品を作るか、工業品を作るか」ということ。
工は一緒でもぼくらは工芸品を作ってるんやと。
工業品やったら会社組織にして、売る人も別にいてっていう形にしないといけないし、実際にそうすれば規模も一気に大きくなるかもしれませんよね。
けど、ぼくらはあくまで工芸品なんだと。
だからそれに対する設備投資も基本は「手」。
自分らで売れる範囲、職商人としてできる範囲でやろうと。
そのうえでは兄弟でやってる、家族でやってる、一人じゃないっていうのは強みやと思います。
冨田珠雲(兄):
いまはそういう時代でもあるので、職人さんがみんな職商人になって、自分らで盛り上げていこうと。
民芸運動的なムーブメントだったり、いろんな人やらが集まって面白いことを自分らで生み出していこうと、いま話しています。




──それがある意味メディアだったり、T5のような大学発の情報発信プロジェクトだったりの役割でもあるんじゃないですか?
小嶋俊(兄):
ホンマそうですね。
なんだかんだ言ってもやっぱり旗振り役がいるんですよ。
冨田睦海(弟):
この五条の工房を、そういう発信の場所にできたらいいなと思ってるんですけどね。
小嶋諒(弟):
どういうイメージですか?
冨田睦海(弟):
たとえばうちのものだけじゃなくて、小嶋くんとこの提灯とかも置いたりして…。
小嶋諒(弟):
そういうことか!
冨田睦海(弟):
ここにきたらいろんな京都の工芸品があるぞ、というような場所。
そこにこうやって取材していただけたら早いですよね。
小嶋俊(兄):
だからまずは自分らでちゃんと自分らの仕事をマネジメントして、ブランディングとかもしっかり考えて。
戦略を持ってやらんとあかんなと思いますね。
小嶋諒(弟):
あとはお金のこととか、助成金とか、海外へのPRとか、やることいっぱいあるんですけど、自分らだけではムリやなあって最近感じてきて…。
冨田睦海(弟):
でもそれは逆に言えば、それだけ事業が広がってきたことの証拠でもあるわけやもんね。
温新知故
#08
小嶋商店×冨田工藝
文:
松島直哉
撮影:
福森クニヒロ
小嶋商店 HP:
http://kojima-shouten.jp/
冨田工藝 HP:
http://www.tomita-k.jp/
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。
この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。