温新知故
#05


兄弟で継ぐメリット

京都のアートやクリエイティブ活動の最新事情を訪ねてみると、その奥には必ず伝統という財産が豊かに広がっていたりする。
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。

この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。

──では兄弟で継ぐことの、最大のメリットはなんでしょう?

小嶋俊(兄)
まず兄弟って、そんなにきっちりきっちり話してなくても自然と同じ目線で物を見たり考えたりできるんですよ。
そういう人間ってやっぱり他にはなかなかいない。

冨田睦海(弟)
それはほんまにそうやね。

小嶋俊(兄)
家も仕事場もここで、この場所でずっと一緒に育って来て、あんなことやらこんなことやら、毎日いろんなことがあるということがわかってて、そのうえで協力してやるというのは、やっぱり外からいきなりフッと入って来て始めるのとはやっぱり違いますよね。

小嶋諒(弟)
あとやっぱりお互いに思い切り遠慮なく言い合えるのが、いちばんいいところかなと思いますね。
オブラートに包まなくていいというか。

──たしかに兄弟や家族だとお互い本音で話しやすいというのはありますね。

小嶋俊(兄)
そうそう。
こういうこと考えてるんやろな、って言うのがわかるから。
ほんまに遠慮なくやれる。

冨田珠雲(兄)
それでいうとね、ぼくらきのう兄弟喧嘩したってわかります?

(一同爆笑)

冨田睦海(弟)
仕事のことですよ、もちろん。

冨田珠雲(兄)
「それはおかしいやろ!」「お前なあ」って。
でも別に根に持ったりしないし、朝起きたらおはようってなれるでしょ。

小嶋俊(兄)
でもそれが他人やったらねえ。

冨田珠雲(兄)
他人やったらやっぱり恨み恨まれ、になりますよね?

小嶋諒(弟)
いろいろ溜まっていきそう。

小嶋俊(兄)
そこはほんまに家族だけでやれてることのメリットでしょうね。

冨田珠雲(兄)
あとはやっぱり分業できることでしょうね。
たとえばここのお店は一般のお客さんに来てもらって、見てもらえる工房。
多少は作業の邪魔になってもいいから、情報発信できる制作場所で、そこには弟がいてくれている。
で、ぼくはもうひとつの制作場所にいるんですけど、そこは誰にも邪魔されない制作に集中できる場所。
聖域。
そういうタイプの違う制作環境をふたつ作って、使い分けるようにしたんです。

小嶋俊(兄)
ああ、それめっちゃいいやりかたですね!

冨田珠雲(兄)
やっぱり集中しないと作れへん時があるんですよ。
そんときに「すいませーん」ってお客さんに来てもうても困るんで、こもって仕事できる場所がほしかったんですよね。

冨田睦海(弟)
いっぽうでここは、京都で職人さんが作ってるところを見られる場所ってないよね、っていうのでこういうオープンな工房に変えたんです。

冨田珠雲(兄)
いわゆるオープンキッチンみたいな発想ですよね。
まさにいま料理が出来上がるところを目の前で見せるというね。

小嶋俊(兄)
ああ、そうですね。

冨田珠雲(兄)
そうやって役割も場所も、それぞれで分担したり、したりできるというのも、ある意味では兄弟やからやりやすかったというのはあったと思います。

小嶋諒(弟)
たしかに、他人やったらいろいろややこしそうですよね。

小嶋俊(兄)
どっちがどっちやるんや!とか。

冨田珠雲(兄)
それこそ給料どうすんねん!とかね。

小嶋諒(弟)
あー!たしかに。

冨田睦海(弟)
でもあるとき気づいたのは、オープンキッチンというのは料理人さんにとって見せ場ではあるんですけど、逆にその奥でやってる仕込みというのは、それはそれであるわけです。

小嶋俊(兄)
ハイハイ、そうですね。

冨田睦海(弟)
だから10年ほど前にこのかたちにした当時は見せることばっかり考えてたんですけど、最近ちょっと考え直して、見せる部分と見せない部分のバランスが大事やなと。

小嶋諒(弟)
なるほど。それがお兄さんの「こもる」作業場なんですね。

冨田珠雲(兄)
そういうことです。

冨田睦海(弟)
昔の職人さんが外から見えない奥にいてはった意味がやっとわかったというか。

小嶋俊(兄)
でも、そうは言うてもやっぱり奥で作業ばっかりやっててもダメじゃないですか?

冨田睦海(弟)
そう。奥に入りすぎると発信ができない。
なので、唯一昔の職人さんの時代と違うのが、ウェブなんです。

小嶋諒(弟)
SNSとかもそうですよね。

冨田睦海(弟)
そうそう。
昔はそれを商売人さんに託すしかなかった。
でもいまはぼくら自身で発信できるツールがある。
そういうツールができたのはすごく大きいことやと思います。

小嶋俊(兄)
でもなにを発信するかって難しいですよね。

冨田珠雲(兄)
いろんな職人さんに聞いてみたんですけど、みんなが口揃えて言うのは「こういう仕事をやってるということを知ってもらいたい」なんですよ。

小嶋諒(弟)
ああ、それめっちゃわかります!

小嶋俊(兄)
たしかに「京提灯」とか言うても一般の人、誰も知らないですもんね。

冨田睦海(弟)
ぼくらなんか昔「あの職業はなくなった」と言われて来たんです。

小嶋諒(弟)
え?どう言うことですか?

冨田睦海(弟)
いま京都でお位牌を作ってるのはウチらだけなんです。
でも昔ぼくらがまだ父親のところで仕事してた当時、すでに売り手さんが「京都で位牌なんか作るところはもうないので海外で作っているんです」ってお客さんに言うてはるのを、ぼくらその横で聞かされて来たんです。

小嶋俊(兄)
なんでですか?

冨田睦海(弟)
売り手さんからすると「そういうことにしといたほうが商談がまとまりやすいから」というんです。
京都にはないから中国で作りました。安いでしょ?と。

小嶋俊(兄)
ああ、安くして売りたいから。

冨田睦海(弟)
そう。でもそこまで言われて、そういう状況に我慢しないといけないのが悔しくて悔しくて。
ぼくらってなんなんやろう?と。
「なんで黙ってなあかんねん」って思って苦虫噛み潰してたんですよね。

冨田珠雲(兄)
いや、ここに作ってるとこあるやん!っていう。

冨田睦海(弟)
ほんまはぼくらそう言いたいんです。
でも言えなくて。
かと思えば中国で作って来たもの持って来て「ここ壊れたし、直しといて」とかサラっと言われたりして。
「じゃあこれ直したら京仏師が直した仏像として世に出るんですか?」
って聞いたら「いやそんなわけにはいかん」と。

冨田珠雲(兄)
そんなことのために技術を身につけたわけやないのにねえ。

小嶋諒(弟)
ほんまですよね。

冨田睦海(弟)
しかも昔は職人が自分でなにか発信しようもんなら「職人が表に出るな」と言われる時代やったし。

小嶋俊(兄)
でもいまこんだけウェブが普及して職人自身でいろいろ発信できるようになると、逆にそんなこと言うてはるような売り手さんはもうアカンのんとちゃいます?

冨田睦海(弟)
だから、むしろこういう状況だと知ったうえで、じゃあ商売人さんとどう手を組んでいくのかというのが職人の側に問われてくるのかなと。

小嶋俊(兄)
たしかにぼくら自身で発信できるようになったとはいえ、できることは限られてますから、身内で閉じてるばっかりじゃダメですよね。

冨田睦海(弟)
そこがウェブも含めての「見せる」と「こもる」のバランスなんだと思います。

──ワークショップやウェブで開く部分と、集中して作る制作現場のバランスですよね?

小嶋俊(兄)
それはうちも課題で、ワークショップもやってますけど、やっぱり作業止まりますしね。

冨田珠雲(兄)
工房見学とかの時にいちばんびっくりするんは、刃物とか気軽にさわらはるんですよ。

小嶋俊(兄)
あー!

冨田睦海(弟)
もう僕らからしたら考えられないことですよ。
いや何してはるんですか!ってなりますよね。

小嶋俊(兄)
職人にとっての神聖なところにズカズカって入ってこられると、いやいやってなりますよね。

冨田睦海(弟)
だけどぼくらはいっぽうでは「見てください」って言ってるわけですから。

小嶋諒(弟)
そうですよね。矛盾してますよね。

小嶋俊(兄)
そこのバランスがほんまにめちゃくちゃ難しくてぼくらも悩んでるんです。

冨田珠雲(兄)
たとえばうちは値段とかあんまり表に出してないんです。

小嶋諒(弟)
へえ、なんでですか?

冨田珠雲(兄)
お店においてある仏像に値段入ってると「これください」って言わはるんですよね。
でも仏像は買うものじゃないんです。作るものなんです。
だからその人がどういう思いで仏さんを作るのかということがまずあって、そのうえでその人のために作るものだからです。
だからそんなウインドーショッピングみたいにして買うものじゃないんですよ。

小嶋諒(弟)
あー、なるほどねー!

冨田珠雲(兄)
ただ、だからこそそういうお話をゆっくり聞くためにはこういうオープンな場所も必要なんです。
こもって作ってる現場へ来られて根掘り葉ほり聞かれても困るし。

冨田睦海(弟)
さっきの料理のたとえでもお刺身切ったり盛り付けとかは目の前でしますけど、その手前の仕込みの部分とか焚き物は奥でちゃんとやってはるじゃないですか。あれと一緒ですよね。

小嶋俊(兄)
いやそれはほんま一緒ですよね。
ぼくらはまだいまは、制作の現場と見てもらうところが同じ場所なんで、やっぱりどうしても手が止まる。

小嶋諒(弟)
そう。
ワークショップもっとやりたいんですけど、やると手が止まるんで。

小嶋俊(兄)
これがいまぼくらの最大の課題。
もう一個どっかにワークショップ専用の場所があったらええのになあって。

冨田珠雲(兄)
みんな思ってるんですよね。
本音を言うと職人さんは制作現場に入って来てほしくないんですよ。
でも自分たちの仕事を広めるためには、現場を見せないといけない。
見せるためには入れなあかん。

冨田睦海(弟)
もちろん質問しはる人も興味あるから聞いてくれてはるわけで、悪気があるわけじゃないですしね。

小嶋俊(兄)
いやほんまその通りで、だからこそきちんと応えてあげるためにも、それ専用の場所を作ろうということですよね。



温新知故
#05
小嶋商店×冨田工藝

文:
松島直哉

撮影:
福森クニヒロ

小嶋商店 HP:
http://kojima-shouten.jp/

冨田工藝 HP:
http://www.tomita-k.jp/

温新知故
#05


兄弟で継ぐメリット

京都のアートやクリエイティブ活動の最新事情を訪ねてみると、その奥には必ず伝統という財産が豊かに広がっていたりする。
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。

この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。