──工房をオープンにしてウェブで職人自身で発信できれば、いわゆる商売人さんはもはや不要だということですか?
冨田珠雲(兄):
いやむしろ頼りたいことはいっぱいあるんです。
ただ現状はぼくらが望むようなかたちでやってもらえてないと感じてるだけで。
仏像の基本知識とかをちゃんと理解して業界のこともわかって、その上でマーケティングとかの知識を活かして引っ張ってくれる人だったらいいんですけど、そういう人がなかなかいないですよね。
小嶋俊(兄):
だからね、うちは去年そういうマネジメントとかマーケティングとかができる専門の人を雇ったんです。
「しんちゃん」っていうんですけど、英語ができて日本のある企業のドイツ支社で支社長をやってた人。
それはもう15年来の友だちで4つ年上なんです。
その人が去年からうちで一緒に働いてもらってるんですよ。
冨田睦海(弟):
え?そのドイツ支社長を辞めて?
小嶋諒(弟):
そうです、そうです。
冨田睦海(弟):
へー!
小嶋俊(兄):
前の会社でなんぼもろてたか一切知りません。
でも「一緒にやってほしい」と言うて口説き落として。
もうほとんどプロポーズですよ。
冨田珠雲(兄):
ヘッドハンティングですやん。
小嶋俊(兄):
でも正直給料なんか出るかわからんと、でも一緒にやってほしいという想いを伝えたら、来てくれたんです。
「わかった」って言うて。
冨田睦海(弟):
へー、それはすごいなあ。
小嶋俊(兄):
でもやっぱりそれは若い頃からの地元の友だちやったというのもあるし、そういうメンバーとできるのも家族経営の自営やからこそのことかなと思うんですよ。
いまは親父も理解してくれてますけど、最初は「お前ら何考えてんねん」と。
「その人の人生保証できんのか?」と。
でも話すとわかってくれました。
たぶん、ふつうの会社やったらこんな簡単に話が進まなかったと思うんですけど、兄弟や家族なので理解してもらえた面もあるかなと思います。
小嶋諒(弟):
だからいまなんて親父としんちゃんが一番仲良しなんです。
きのうも提灯の設置をしにぼくと兄貴としんちゃんの3人で行ったんですけど、「無事に収まったか?」いうて親父が電話かけて来るのはしんちゃんなんですよ。
冨田睦海(弟):
えー!
小嶋俊(兄):
「親父、俺らに電話して来よらへんなあ」って二人で喋ってたんです(笑)。
冨田珠雲(兄):
お金のマネジメントもそうですけど、みんな職人なんで受注とか納期とか、いろいろ管理とか大変ですよね。
小嶋諒(弟):
そうそう。
全員がプレイヤーなんで、誰も管理ができなかったんです。
冨田睦海(弟):
わかる!
小嶋俊(兄):
スポーツで言うたらたとえば攻撃が得意のやつもいれば、守備が得意なのもいる。
でもどっちにせよ全員プレイヤーなんで、監督やコーチみたいな引いた目線でこうしたらいいんじゃない?って指摘してくれる人がいなかったんです。
何月何日までにこれ作りましょうとか。
こう言う注文入ってますよとか。
冨田睦海(弟):
あーなるほどー。
小嶋俊(兄):
だいぶ前に入ってたはずの注文のファックスが納品予定の前日とかに、どっかからペラっと出て来たりするんですよ。
それをやめましょうとか。
冨田睦海(弟):
はいはい、はいはい。わかります、わかります!
冨田珠雲(兄):
毎日そんなんばっかりですよ!
小嶋俊(兄):
ブワーって汗出るんですよ。
小嶋諒(弟):
ほんまヘンな汗出ますよね!
冨田珠雲(兄):
ムリやん!って。
小嶋俊(兄):
そういった業務管理も、そのしんちゃんがやってくれてるんです。
──それってたとえば兄弟でやってるところでも、お兄さんが管理役で弟が職人みたいなチーム編成のところとかはないんですか?
冨田珠雲(兄):
そういう余裕があればいいんですけど…。
冨田睦海(弟):
たいがい家族経営のところって、そんな余裕ないんですよ。
小嶋俊(兄):
あと兄弟であまりにも完全に違う職種で分業みたいにしてしまうと、こっちのほうが大変やとか俺のほうがオマエより働いてるとか、っていう話になるんで。
冨田珠雲(兄):
そう!なるんですよ!
小嶋諒(弟):
やっぱり!なります?
冨田睦海(弟):
なります、なります。
小嶋俊(兄):
あの、ぼくらは工程的にいうとリレーなんです。
まずぼくが得意先と話してきて、最初の竹割をやって、頼むぞということで引き継いで、弟が紙貼りするっていう。
小嶋諒(弟):
だから分業は分業やけど、あくまで職人作業の中での分業なんで。
冨田睦海(弟):
あー、わかる。
小嶋俊(兄):
お互いに「コイツがいてくれないとムリ」と言う状態をやっぱり作ってあるんです。
そのうえで給料はピタッと合わせて、子どもの数で手当てに差が出るとかってぐらいにしとかないと、どっちが上や下やって話になるともう…。
冨田珠雲(兄):
「オレはこんなに遅うまで働いてんのにオマエはよ帰ったやろ」とか「飲みに行来やがって」みたいな…。
小嶋俊(兄):
そうそう、そうそう!
小嶋諒(弟):
ハハハハ
冨田珠雲(兄):
飲みに行くのも営業活動やったりするんですけどね。
だからうちは分けたんですよ。僕が仏像で…。
冨田睦海(弟):
僕が位牌担当で。
小嶋諒(弟):
あー、なるほど。
冨田珠雲(兄):
そうするとお互いが助け合えるんです。
というのは仏像の台座とお位牌の台座ってほとんど同じなんです。
小嶋俊(兄):
ああ、そういうことか!
冨田珠雲(兄):
忙しい時とかにお互い「これ頼むわ」ってできるんですよね。
小嶋俊(兄):
それは僕らのリレーの関係と同じでいてくれんと困る関係になってるということですよね?
冨田珠雲(兄):
そういうことです。
冨田睦海(弟):
わかりやすくいうと、たとえばぼくがお寺さんに行って仏像の注文とかとてくるとするじゃないですか?
そうしたらぼく、兄貴に発注書書くんですよ。
小嶋諒(弟):
ええー!そうなんですか?
冨田睦海(弟):
はい。すぐ忘れるんで。
それで見積もりするんです。
いやもちろん元々はなあなあでやってたんですよ。
冨田珠雲(兄):
でも、もうわからんようなってくるから。
冨田睦海(弟):
ぼくが「兄貴あれ覚えてる?」って尋いたら兄貴が「え?」ってなって。
小嶋俊(兄):
うわ~。
冨田睦海(弟):
兄貴もだんだん「お前がやっといたらええやんけ」みたいな雰囲気になってくるでしょ?
小嶋諒(弟):
ハハハハハ
冨田珠雲(兄):
あの…これが昨日の喧嘩の原因なんですけど…。
(一同爆笑)
小嶋俊(兄):
そうそう、管理はねこれがほんまに盲点なんですよ。
しんちゃんが管理してくれてるだけでぼくらどれだけやりやすくなったか。
冨田珠雲(兄):
だから兄弟やけど他の業者と一緒にしようと。
発注書をお互い書いて、書かれて。
冨田睦海(弟):
そうそう。
小嶋諒(弟):
身内でやってるからこそ、なあなあになってしまうというか、言うた言わんになってしまいガチですもんね。
冨田珠雲(兄):
そういうとこはきちっと書面で残しておこうと。
そしたら責任がはっきりするんで。
冨田睦海(弟):
せやけどその上でもやっぱり最終的には兄弟やからっていう
小嶋俊(兄):
役割分担ははっきりしつつ、いてくれんと困る。
冨田睦海(弟):
わかるわ~。
──小嶋さんところもそういう意味では役割分担ははっきりしてますよね。
小嶋諒(弟):
そうですね。きっちり分かれてますね。
小嶋俊(兄):
基本的にはぼくが前に出ていって、イベント企画とかコラボ企画みたいな話を聞いてきます。
だからぼくがバーって荒らしたところをみんなでキレイに掃除してくれてる感じですね。
ぼく一人やったらただのムチャクチャな思いつきで終わるところを、みんなが現実的なところに落ち着けてくれている。
逆に親父のやりかただといまでも従来やってきた請負仕事だけやってたやろうし。
いまそのバランスがすごく取れてるかなって思います。
管理はしんちゃんがやってくれて。
だから正直、いまメチャクチャいい状態で仕事できてるなって思いますね。
小嶋諒(弟):
今日皆さんとお話してみて、家業で、しかも兄弟で仕事ができるというのは、とくにこういう職人みたいな仕事をするうえでは、あらためてすごく有利なのかなって思いましたね。
温新知故
#06
小嶋商店×冨田工藝
文:
松島直哉
撮影:
福森クニヒロ
小嶋商店 HP:
http://kojima-shouten.jp/
冨田工藝 HP:
http://www.tomita-k.jp/
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。
この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。