温新知故
#07


初代を育てる

京都のアートやクリエイティブ活動の最新事情を訪ねてみると、その奥には必ず伝統という財産が豊かに広がっていたりする。
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。

この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。

──いまは美術系の大学から興味を持って来る人も増えていると思うんですけど、そういう人に一番必要なことってなんだと思いますか?

冨田珠雲(兄)
ここまでの話の流れだと「家業じゃないとダメ」とか「外から入るのはムリ」という印象を持つ人も多いかもしれません。
でもそんなことは、まったくありません。
やる気のある人はぜひ一回やってみましょうと言いたいんです。
なぜかというと、もし自分が一人前になってその後を自分の子どもが継いでくれたら、それはもう家業になるわけですよ。

小嶋俊(兄)
あー。

小嶋諒(弟)
たしかに!

冨田珠雲(兄)
でしょ?
だから逆に言えば外から来る人は自分が「初代」になれるんです。

小嶋諒(弟)
でもそれができたら、すごいことですよね。

冨田睦海(弟)
だって逆にぼくらは、もうどうがんばっても「初代」にはなれないわけですから。

小嶋俊(兄)
そうか。ほんまですね。

冨田珠雲(兄)
だから一番必要なことと言われれば、やっぱり「初代になる」という決意でしょうね。
うちの工房からは弟子がふたり独立しました。
うちは早めに外へ出すんです。
本人が「自分でやれる」と思ったら、出てみろと。
もしうまくいかんかったら、ここに帰ってきたらええやんと。
そうやって弟子がふたり独立しましたけど、その弟子が子どもらに継がせたらそこは家業ですからね。
ぼくらと同じ道を歩んでいってくれる。
そういう人を増やしていくのが業界を伸ばす秘訣やろなと思うんです。

冨田睦海(弟)
いずれにしても丁稚の時代、修行時代っていうのはなんで必要なのかというと、それが自分の「意地」になるんですよね。
「あんなしんどい時あったのに」っていう。

冨田珠雲(兄)
辞めるのもったいない!みたいな。

冨田睦海(弟)
そうそう。
あんなに金のないときにこんな高い工具買うたのに捨てられへんやんみたいな。
初任給とか最低賃金とか残業代とか、工具も支給でとかやると、たぶん愛着もわかないし、すぐに気持ちも離れてしまうと思うんですよね。

冨田珠雲(兄)
それも人によるとは思いますけどね。
独立心の強い子もいれば、そういうのはイヤやという子もいます。
独立心ある子は出ていったらいいし、そうじゃない子は、ずっとうちでやってもらってもいい。
プロとしてそれでメシを食うっていう覚悟があれば、なんぼでも受けつけますよ。

冨田睦海(弟)
だからそれも兄弟でやってるからこそ、かなあと思います。
とにかく技術をつけて独立したいっていうなら「兄貴の弟子につけ」って言いますし、逆に少しずついろんなことをやりながらゆっくり学んで、この職場でこの仕事をずっと続けたいんやったらウチのとこで、と。
でもそれはどっちも冨田工藝だよっていう。
それはたぶんいわゆる会社組織だと、そういうこともやるづらいと思うんですよ。

小嶋俊(兄)
ああ、わかりますわかります。

──小嶋商店さんでは、そのあたりどうお考えですか?

小嶋俊(兄)
このご時世にひとつひとつ手作りでものを作って売るなんていうのは、ハッキリ言って正気の沙汰やないと思うんですよ。

冨田珠雲(兄)
ほんまにそうですよね。

小嶋俊(兄)
だって、いまは機械にセッティングさえしとけば自動でスパンスパンで完成品が出てくる時代ですから。
それを一個ずつ作って売る仕事を生業にするって大丈夫なんか?
っていうところからの問いですよね。

冨田珠雲(兄)
まあビル建てようと思ってたら、まずしないですよね。

小嶋俊(兄)
そうですよね。
やっぱり家が好きで、みんなで毎日ニコニコして仕事して、でもやるべきことはしっかりやって、少しずつ海外の人にも認められてっていう。
いまは自分らの代がどう生き残っていくかを考えてるところなんで、まだ次の世代というところまでは正直なところ考えられてないですね。

小嶋諒(弟)
ぼくなんかまだ代どころか、自分自身のことだけで精一杯ですからね。

小嶋俊(兄)
だからもし外から来てくれるっていう人が仮にいたとしても「うちでやりたいんやったらおいで」って胸はって言えるようなところまでは、まだ届いてないです。

小嶋諒(弟)
ほんま、それはまだまだ先やな。

冨田珠雲(兄)
ぼくもかつては言えなかったんです。
でもね、弟子っこがいてくれたからこそ、わかることがあるんです。
案外、自分のほうが勉強になったりするんですよ。
自分がおさらいしている感じで、むかし親父に言われたことと同じことを言うてる自分がいるんですよね。

小嶋俊(兄)
へー。

冨田珠雲(兄)
その子がだんだんできるようになってくるでしょ?
そうすると7、8年で給料抜かれたりしますからね。

小嶋諒(弟)
え?ほんまですか?

冨田珠雲(兄)
歩合制なんでね。

小嶋俊(兄)
ああそうか!なるほどね。

冨田珠雲(兄)
ほんまに頑張ってる子は一年二年で研修期間終わるかもしれませんしまあやれるもんならやってみろ、ですけどね、伝統の技術はそんな甘くないですけど、でもほんまに頑張ればできると思います。

冨田睦海(弟)
せやし、小嶋くんとこも一回若い子取ってみはったら面白いと思いますよ。

小嶋諒(弟)
面白いですかね?

小嶋俊(兄)
でもたしかに、その「しんちゃん」が入って来た時、ほんまはものすごく心配やったんです。
でも、やってみたらなんとかなるもんやなあって。
それが勉強なりましたね。

小嶋諒(弟)
もうまるまる一年ですもんね。

冨田睦海(弟)
へえ。

小嶋俊(兄)
たとえば工期の長い仕事とかに注いては、先に半額だけ請求したりとか、そううことをキッチリ見越してやってくれるんです。
ぼくら職人がそれやるとヤラシかったり、儲かってないとか思われて足元見られそうな気がして絶対できないんですけど、しんちゃんやとマネージャー的な存在やって得意先の人もわかってくれてるから、言いやすいじゃないですか。

冨田睦海(弟)
そうか、なるほどね。

小嶋俊(兄)
まあでもやっぱり、これからやるっていうのはすごく大変なことやとは思うんです。
だから、それでもやりたいっていう人しか残らないと、ぼくは思うんです。
ただこういう言い方するとやめとこうってなるかもしれないですけど、逆にいえば強い気持ちさえあれば、意外となんとかなるもんやっていうことでもあるとは思うんですね。

小嶋諒(弟)
そういうたら、うちってそういう弟子になりたいみたいな子、来たことないな?

小嶋俊(兄)
ほんまやな。そう考えたら。

冨田睦海(弟)
うそー?あんだけテレビやらいろいろ出てるのに?

小嶋諒(弟)
そんなに魅力ないんやろか?

冨田珠雲(兄)
いやでもうちも来たことないで。

冨田睦海(弟)
あ、そうか。知り合いの紹介とかやもんな。

冨田珠雲(兄)
ぼくらの最初の弟子は、もともとアルバイトやってくれてる子が急に「やりたいです!」って向こうから言いだしてきてくれたんです。
でもそんな弟子なんか取れる余裕ないしって、さっき小嶋さんとこが言うてはったのとおんなじこと言うてたんです。
そしたら「実家から通います。給料はなんぼでもいい。
バイトのままでもいいんで、やらしてください」って言うんですね。

小嶋俊(兄)
そんくらいの子やったら、きっとできるんでしょうね。

冨田睦海(弟)
そうそう、そういう子やったから、やっぱりいまものになってくれてるしね。

小嶋諒(弟)
やっぱり、そうなんですね。

冨田珠雲(兄)
その次の子も同じでした。
で、最初の子と次の子ははじめから歩合制だったんで、1か月働いてお給料5万円もいかなかったんですね。
そのかわり作業場を好きに使っていいよと。
ここで寝てもいいし、自分の作品作ってもいいと。
それでまあ一年二年してるうちに給料が上がって。

小嶋俊(兄)
そういうサイクルを作ってあげればいいんか。

冨田珠雲(兄)
やっぱりガッツがないとダメですね。

小嶋俊(兄)
ガッツないですよねえ。

小嶋諒(弟)
ぼくだって家業じゃなかったら、間違いなく辞めてますもん。

(一同爆笑)

冨田珠雲(兄)
そらまあ、家業やと辞められないですしね。

──小嶋さんのところは二人ともお子さんいらっしゃいますけど、将来的に継がせたいとかは考えたりしますか?

小嶋俊(兄)
まあまだ小さいんで具体的には考えてないですけど、でも夢としては一緒にやれたらいいなとは思いますね。
でもさっきも言ったけど正気じゃないんでね。

冨田睦海(弟)
そうやねえ(笑)。

小嶋俊(兄)
ほんまに大変やと思うし、だからそれだけのもんをこれから次の世代に残してやれるかっていうことですよね。

冨田珠雲(兄)
そういう環境づくりとかは何か考えてはるんですか?

小嶋諒(弟)
環境づくりとかしなくても、いまの環境がそのままぼくらの時とまったく同じなんでね。
保育園から帰って来たら、そこが職場で、そこがあそび場で、家でもあるっていう。

冨田睦海(弟)
ああそうか、なるほど。

小嶋俊(兄)
そうなんです。
夕方に弟の嫁さんが子ども抱っこしてるところにうちの子が保育園から帰ってきて、そしたらぼくらも他の職人さんも手を止めてみんなで遊ぶみたいな。

小嶋諒(弟)
ほんまにぼくらが子どもの頃とそのまんま同じ光景が繰り広げられてるんでね。

小嶋俊(兄)
なのでまあそういう環境でみんなニコニコしながらできたらいいなあというのは思いますね。
家族やしできるというかね。

冨田睦海(弟)
ああ、それはほんま理想やわ。

冨田珠雲(兄)
ええなあ。
うちなんて今月子どもと2回くらいしか会うてないですからね。

小嶋諒(弟)
えー!

冨田珠雲(兄)
弟子と一緒に住んでますから。

小嶋俊(兄)
ああ、そうかそうか。

冨田珠雲(兄)
これはさすがにアカンと思って、いまどうしようか考えてるとこなんです(笑)。



温新知故
#07
小嶋商店×冨田工藝

文:
松島直哉

撮影:
福森クニヒロ

小嶋商店 HP:
http://kojima-shouten.jp/

冨田工藝 HP:
http://www.tomita-k.jp/

温新知故
#07


初代を育てる

京都のアートやクリエイティブ活動の最新事情を訪ねてみると、その奥には必ず伝統という財産が豊かに広がっていたりする。
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。

この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。